さらに、SDGsに取り組むにあたっての自社の課題を見つけることも、一筋縄ではいかないという。SDGsは国際的な目標として設定されたものであるため、自社周辺や日本国内の環境だけを見ていても真の課題に到達できないからだ。
そこで必要になるのが、「リベラルアーツ」だと柿内氏は力説する。日本では「一般教養」と訳されることもあるが、いわゆる“大学の必修科目ではない方の科目”ではなく、本来は「人間がよりよく生きるための力を、身に付けるための手法」を指しているのだそうだ。
リベラルアーツの発祥とされる古代ギリシアでは、“人間がよりよく生きるために考える人”と、“それらを考えずに働く人”に分けられ、前者に該当する人は自由市民と呼ばれていたという。そして、自由市民の学んでいたものが、リベラルアーツの起源となっている天文学や音楽、数学、宗教などの学問だ。
「経営者が世界で起きている問題の背景を理解する上で、これらを学ぶことは不可欠です。例えば、ジェンダー問題を考える場合でも、日本で起きている問題と、イスラム教圏で起きている問題は全く異なります。それを知るためには、世界の文化や宗教を理解しておくことが必要です。もちろん、統計情報を正しく読み取るには、数字が本当に適切なのか、前提は何なのかを構造的に考える必要があり、それには数学の素養なども必要となります」(柿内氏)
アメリカでは、経営者を育成するカリキュラムの中に以前からリベラルアーツが取り入れられていると、柿内氏は話す。リーダーが発信する内容は多大な影響を持つため、もし問題のある発信をしてしまえば企業の没落にもつながりかねない。それを避けるためのスキルとして、リベラルアーツは必要と考えられている。近年は、日本でも企業の幹部研修などにリベラルアーツが導入されるケースも増えつつあるというから、それらを学ぶことは今後、「リーダーの条件」になってくる領域なのかもしれない。
ただし、どれだけ世の中の問題を把握しても、その中の何を自社の課題として扱い、何を目標とするのか、その問題をどう解決していくのかの設定が適切でないと、SDGs実現は困難だ。それは、DXも同様である。
では、経営者はどのように方向性を定めればよいのだろうか? そこで新たなキーワードとなるのが「善意」だと柿内氏は話す。
「善悪の定義は難しいですが、社会や環境に配慮した何かは善意と捉えられることが多いと思います。逆にそれを大きく損なうようなことは、善意ではないと認識されるのではないでしょうか。例えば近年は企業の炎上が増えていますが、これは社会や環境に対するスタンスが世間一般に受け入れられないものだったために起きるケースが多く、善意ではない姿勢や言動が招いたものととらえることができます」(柿内氏)
つまり、それだけ企業の社会に対する姿勢が問われるようになっているということだ。SDGsやDXに取り組むにあたっては、世界で起きている問題の前提を理解するための知識としてリベラルアーツを学び、その上で「善意」に基づいて自社で取り組むべき課題を選び取ることが経営者に求められている。
もちろん、経営者以外のビジネスパーソンにとっても、リベラルアーツを学ぶことは大きな意味を持つ。それに加えて、変化する時代に対応していくには、新たなスキルやマインドセットも必要になるという。後編では、新たな価値観が重視されるようになった時代を組織で生き抜くために必要なものについて聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング