クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタは10年越しの改革で何を実現したのか? 「もっといいクルマ」の本質池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2022年06月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

損益分岐台数はリーマンショック時の6割に

 そうやって部品不足の局面を戦い抜いたトヨタだが、それだけで問題は解決しない。部品不足との戦いは防衛戦であり、減産をいかに防いで利益を減らさないかでしかない。では攻めの領域、利益を増やす戦いはどうするのか?

リーマンショック時とコロナ禍における業績への影響

 そこに威力を発揮したのは「損益分岐台数の引き下げ」だ。図を見てほしい。「リーマンショック前後」と「コロナウィルス発生前後」を比較したグラフである。ちなみに右のグラフは、前期と当期の比較ではなく前々期と前期の比較であることに留意されたい。

 巨大な経済ショックに見舞われた2回の局面において、販売台数はどちらも15%ほどダウンしたが、利益については結果が恐ろしく違う。リーマンショック時の2009年3月期はマイナス4610億円の衝撃的赤字。対して、コロナ禍の21年3月期は2兆1977億円の黒字。まさに天と地ほどに違う。

 状況をもう一度整理しよう。21年3月期は、生産が度々止まって、クルマが造れなかった。販売を伸ばして利益を出すことはあまり期待できない。営業利益は基本的に「販売台数」と「1台当たり利益」の積で決まる。否応なく台数が減る局面で利益を出すとしたら、より高いグレードや高いモデルを売るしかない。

 ではお客はどういうクルマなら高く買ってくれるのか?  そこを問い続けたのが「もっといいクルマ」である。現社長の豊田章男氏が社長に就任して以来、トヨタは事業強靱化(きょうじん)を目指し、TNGA改革を断行し、お客が価値を感じるクルマの走りや性能を高めつつ、コストを落としていった。「もっといいクルマ」は「TNGA改革」であり、それが豊田章男社長の経営の軸になっている。

損益分岐台数の推移

 それが端的に表れたのが「損益分岐台数の推移」だ。これを見るとリーマンショック時を100として、22年3月期は6割程度まで下がっている。仮に09年3月の実績756万7000台の6掛けとするならば、現在の損益分岐台数は単純計算で454万台あたりになる。損益分岐台数とは何かといえば、その台数が黒字と赤字の分水嶺になることを意味している。09年3月には756万7000台も生産していながら、4610億円の赤字になっている。それは損益分岐台数が756万7000台より高かったからだ。

 一方、21年3月はほぼ似たような水準の764万6000台でも2兆1977億円もの黒字を出していることから、損益分岐台数が大幅に引き下げられたことが分かる。平たくいえば、昔より減産に強くなった。企業として逆風への耐性を大幅に高めたわけだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.