VTuber「にじさんじ」が上場、時価総額1600億円に達したワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)

» 2022年06月10日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

時価総額はエイベックスの3倍近くに……高すぎる?

 そんな「にじさんじ」を運営するANYCOLORであるが、1500億円という時価総額はプロダクション事業というセクターで比較すると突出して高い点に注意が必要だ。

 例えば、福山雅治氏やサザンオールスターズの桑田佳祐氏といった超有名アーティストを複数擁する大手芸能事務所である「アミューズ」も上場しているものの、その時価総額は384億円にとどまる。

 他にもヒカキン氏の「UUUM」(時価総額298億円)や浜崎あゆみ、安室奈美恵、EXILEの「エイベックス」(時価総額585億円)をも遥かに凌ぐ時価総額だ。そう考えると、ANYCOLORは知名度の割には高すぎる時価総額にも見える。

 そこで、ANYCOLORとアミューズの売上高・営業利益を比較してみよう。アミューズの業績はそれぞれ387億円、28億円程度だ。ANYCOLORの業績はそれぞれ76億円、9億円で、両者を比較するとアミューズの4倍近い時価総額がつくのはやはり疑問とも思える。

 そもそも上場時の想定値付はアミューズと近い446億円であったことから、大和証券のような主幹事証券会社にとっても、ANYCOLORへの市場の値付けはサプライズだったのかもしれない。

 それでも市場が高値で評価するのは、VTuberの可能性に期待があるのもさることながら、利益率の高さと業績の伸び率の高さにある。ANYCOLORの売上高営業利益率は11.8%と、アミューズの7.2%よりも1.6倍ほど効率的だ。

 また、昨期から売上高は34億円から76億円に、営業利益は4400万円から9億円へと急成長している。一方、アミューズの場合はコロナ禍もあって2期連続で減収・減益となっており、昨期は398億円、35億円であった。

 コロナ禍でリアルのイベントが停滞する中、自宅で楽しめるエンタメとして配信業やゲーム業界が恩恵を受けたが、VTuberもその文脈で業績の拡大に成功したようだ。今後も同じような成長率を維持できるのであれば、「高すぎる」と断じるのも早計かもしれない。

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