ちまたでは、宿泊特化型=ビジネスホテルと呼称されると前記したが、「メディアにおいて」というのがより正確であろうか。前編では料金表記についての筆者ならではのジレンマを吐露したが、同時にビジネスホテル問題も長年抱えてきたジレンマである。業界のリアルな声とのジレンマという点では、料金表記以上にいまだ問題解決には至らない大きなテーマともいえる。思い起こせば「ビジネスホテル」という言葉の意味をあらためて意識したのはテレビの仕事を通してだった。
6年ほど前、某局の人気番組から“ビジネスホテル特集”を組むので施設を推挙せよとの依頼があった。テレビだけに“アッといわせるビジネスホテル”をと、「ビジネスホテルなのにスイートルームがあるホテル」「ビジネスホテルなのにハイセンスなダイニングがあるホテル」「ビジネスホテルなのにアーティスティックなコンセプトのホテル」というような、「ビジネスホテルなのにすごい」と、視聴者がアッと驚くことを期待される施設を推挙した。無論、そんな意外性はまさにメディアの求めるところである。
その放送では、前述のような特色ある宿泊特化型ホテルを“ビジネスホテル”というくくりで紹介し、ホテル側からも協力体制を得られ無事放送された。人気番組ということもあり集客効果は絶大だったようで、予約流入数など聞くに各ホテル驚異的な数字が並んだ。
反面、果たしてこのホテルをビジネスホテルと括ったのは正しいのか、このテレビ企画以降もさまざまなメディアから“ビジネスホテル企画”が持ち込まれる度に脳裏をよぎった。
それは、ホテル側は協力してくれるものの、ビジネスホテルという言葉でくくられることをどう思っているのだろうかとの問いでもある。とはいえ、ホテル側の思惑として思料されるのは、メディアに取り上げられることで知名度の向上につながり、集客やステークホルダーからの信頼にも直結。より多くの人々にホテルを認知してもらうという点であろう。そうしたこと鑑みると、本音は別としてもより注目されるキャッチーな言葉でくくられることもまた必要と考えるだろうか。
このメディアによる“ビジネスホテルくくり”の傾向は継続していて、最近でも「朝食がおいしいビジネスホテル」「ビジネスホテルなのにサウナのある施設」という企画依頼もあった。事実“ビジネスホテル”というワードが用いられると視聴率やPVが大幅アップする。テレビもWeb媒体の記事も一目でイメージできるワードは重要だ。「朝食がおいしい宿泊特化型ホテル」との表現では、業界人にはイメージできても、消費者(視聴者、聴取者、読者)にフックするかといえば難しい。
すなわち、ビジネスホテルくくりとは“分かりやすさ”とも換言できる。このジレンマは言い換えると自身への反省も含めた“ビジネスホテル依存”と表せるかもしれない。
いずれにせよ、業界の声という事実に即するよう少しでも違いを表せればと、一時「進化系ビジネスホテル」というワードを頻繁に発信し、多くのメディアに取り上げられたが、それもやはりビジネスホテルというワードの持つパワーありきのものだ。最近ではできる限り実態に即するような表現に努めており、例えば「ここでいうビジネスホテルという表現は……」などと断りを入れることも増えた。
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