新時代セールスの教科書

Sansanの営業はなぜ「専門スキルより、汎用的なセールススキルの習得」を重視するのか先駆者たちの「セールスイネーブルメント」(1/3 ページ)

» 2022年07月08日 08時00分 公開

新連載:先駆者たちの「セールスイネーブルメント」

 近年よく聞くようになったセールスイネーブルメント(Sales Enablement)。営業組織が、成果に向かって持続的に成長できるようにする取組みを指す言葉だ。米国では取り組む企業が増えており、今後日本でも市場が伸びていくことが予測されている。本連載では、ブレーンバディ代表取締役の大矢剛大氏が、日本の企業におけるセールスイネーブルメントの取り組みを調査し、紹介していく。

 営業DXを推進する名刺管理サービス「Sansan」などを展開するSansanは、国内でセールスイネーブルメントにいち早く取り組み始めた企業の1つだ。

 同社は2018年に「営業の生産性の向上」を目標とするセールスイネーブルメント組織を立ち上げ、人材育成やナレッジシェアなどに取り組んでいる。現在、営業組織が急拡大する中で、オンボーディングにかかる期間を半減させることに成功した。

 同社はどのような施策に取り組み、どのように営業生産性(1人当たりの受注金額)の高い人材を育成しているのか。セールスイネーブルメント組織の責任者である山本紘治さんを取材した。

事業企画部 副部長兼Sales Enablementグループマネジャー山本紘治さん。組織人事コンサルティングを行う会社に新卒で入社。その後、事業戦略、デジタルマーケティングなどのコンサルティングを経験。2019年1月、Sansanに入社。インサイドセールス組織のマネジメントに加え、ミドルマーケット開拓の戦略策定と営業組織のマネジメントを経て、現在は事業企画部 Sales Enablement組織で同社のセールスイネーブルメントに取り組む。

営業生産性の向上を目指し、セールスイネーブルメント組織を発足

──セールスイネーブルメント組織を立ち上げた理由を教えてください。

 理由は2つあります。1番大きな理由は人員増強です。17年ごろに、Sansanを利用するエンタープライズ顧客が増え、プロダクト認知が高まりました。その追い風を受け、事業戦略として営業やインサイドセールスの人員増強を決めたんです。

 今まで新入社員の教育は配属先の現場マネジャーが担当していました。しかし、月5〜10人ペースで入社するようになった結果、現場マネジャーの負担が増え、営業成果にも悪影響が出始めるように。また、現場マネジャーが直接教えるため属人性が高く、教育の質にバラつきが生まれたことも課題となりました。それらの課題を解決するためにセールスイネーブルメント組織が立ち上がりました。

 2つ目の理由は、エンタープライズ領域に注力するという当社の戦略に関連します。SMBとエンタープライズの営業スタイルの違いから、営業1人当たりの受注額が低下してしまいました。当社の戦略に合った強い営業人材を育てる必要性を感じました。

──21年には、会社として事業部を廃止し「マルチプロダクト体制」への変更を発表しました。それに伴い、セールスイネーブルメントの方針にも影響はあったのでしょうか?

 はい、大きく影響しています。もともとはSansan事業部やEight事業部など、プロダクトごとに事業部が分かれていました。それを営業およびマーケティング、カスタマーサクセスなどの機能を「ビジネス統括本部」に、プロダクト開発に所属するエンジニアとデータ化、データ戦略、研究開発機能を「技術本部」に集約しました。

 それによって各営業が複数の自社プロダクトを売ることを求められるようになりました。「Sansan」だけではなく、クラウド請求書受領サービス「Bill One」やクラウド契約業務サービス「Contract One」など、一人の営業が扱う商品が増加しました。

 売るものが増えた中で、どのように効率的に営業していくのか。アップセル・クロスセルしていくのか。そこで21年からは「マルチプロダクトセールスの加速」をキーワードに、セールスイネーブルメントを推進していくことになりました。

──現在、セールスイネーブルメント組織は社内でどのような役割を担っているのでしょうか?

 組織が立ち上がった当初は、営業の増員に対応する教育プログラムの構築という役割でした。21年からは「営業生産性の向上」という新たなミッションを掲げています。

 そのミッションを実現するために私たちの役割は、大きく分けて2つあります。1つは新入社員のオンボーディング、プログラムの改善や運用。もうひとつは、新入社員に限らず、営業全員に対して、売れるための知識やスキルをインプットする機会を作ることです。

──エンタープライズ顧客の注力においても「教育プログラムの構築」は有効な手段なのでしょうか?

 エンタープライズ領域の営業は、他社で成果を出していたメンバーだとしても、当社のやり方で同様の成果を出せるとは限らない難しい領域だと思っています。そのため、採用活動と育成を両立させる必要があります。

 SMB領域に比べ、エンタープライズ領域の営業はプロセスが複雑だったり、案件が長期化したりなどの違いがあります。まずは、SMB領域で活躍するメンバーを増やし、そこからエンタープライズ領域の営業ができる人材に育てていこうと考えました。

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