イーロン・マスク氏、ツイッター買収撤回 狂ったシナリオ

» 2022年07月11日 10時18分 公開
[金子正道ITmedia]

 イーロン・マスク氏は7月8日、ツイッターに対する総額440億ドルの買収合意を撤回すると発表した。

 4月25日にツイッターと合意したのちも、マスク氏がツイッターに求めたmDAU(収益対象になる日間アクティブユーザー数)に占める偽アカウントやスパムの量の正しい情報提供に応じなかったことが背景にある。ツイッター側は、この偽アカウントやスパムの比率がmDAUの5%以内と主張しているのに対し、マスク氏側はこの調査に正確さを欠き、5%をはるかに超える数値の場合に重大な不利益を被ると主張する。この合意が取り消される場合、約10億ドルの違約金を支払う条項が付いている。

マスク氏の買収撤回を受けたツイッターのプレスリリース

テスラとツイッターの株価動向はマスク氏の買収合意撤回を予見

 4月4日にイーロン・マスク氏がツイッター株の9%を取得表明してから3カ月が過ぎた。この間、4月25日にはツイッターがマスク氏の株式100%取得による買収提案を受け入れた。

 買収額はツイッター株あたり54.2ドルで、総額440億ドル(当時の為替レート1ドル130円で計算、約5兆7500億円)の合意となった。総額440億ドルのうち、マスク氏が210億ドル分を自己資金で受け持ち、残りは銀行借入となった。この210億ドル分の自己資金確保のために、マスク氏は4月26日、27日両日で約440万株のテスラ株を売却し(28日の米証券取引委員会への届け出による)40億ドル相当を捻出している。

 売却の結果、テスラの株価(終値)は、25日に998.02ドル、26日、27日は876.42ドルまで値下がりした。直後にマスク氏は「本日以降テスラ株の追加売却の計画はない」とツイートしたが、29日には追加で約45億ドルのテスラ株を売却したことも判明した。ここまでで、約90億ドル分のテスラ株を現金化したこととなる。残り120億ドルをマスク氏はどう捻出するのか? 市場はいやでも追加のテスラ株売却懸念と、その結果の値下がりを予想する。その後、5月に入ってからはテスラの株価(終値)は10日の800.04ドルを最後に連日800ドル割れとなっている。

 テスラ株の値下がりは、買収資金のうち255億ドル(約3兆3200億円)を引き受ける銀行団へも影響を及ぼす。およそ半分の125億ドル(約1兆6300億円)はマスク氏が保有するテスラ株の価値を担保に貸し出すからだ。株価が上がれば担保に差し出すテスラ株は少なく済むが、下がれば株数は積み増される。しかも、テスラ社内はマスク氏の持つ株式のうち25%までしか担保にできないルールを設けている。

 マスク氏自身は、ツイッター買収に210億ドルの自己資金とテスラ株を担保に出す125億ドル、計335億ドル(約4兆3600億円)という膨大なリスクを背負うこととなっていた。事業面では、テスラとツイッターとの相関性は未知数だ。

 創業者のジャック・ドーシー氏が2006年に独想的なメディアとして生み出したツイッターは慢性的な赤字企業でもある。1株54.2ドルで100%マスク氏が取得するで合意したツイッターの株価は、合意ののち一度たりとも54.2ドルを上回ったことがないどころか、6月以降は40ドル前後を推移している。買収合意の重点を担っていたテスラ株は、株価はもとより売却ウェイトや担保価値でもマスク氏のシナリオが狂ってきた。

(出所:TESLA HP )

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