サイバーエージェント「初任給42万円」の衝撃とからくり”固定残業制”の表裏(5/5 ページ)

» 2022年08月11日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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トラブルを回避する方法は

 固定残業制はメリットが多いゆえに多くの企業で採り入れられている。しかし一方で、仕組みを誤解していたり、都合よく利用したりする会社も多く、トラブルにつながることがあるので、読者の皆さまも就職や転職の際には重々留意いただきたい。具体的には次のような点に注意することだ。

(1)求人票において、基本給と固定残業代を区別して表示しているか?

 固定残業代は、基本給や諸手当など他の賃金とは明確に区別して、具体的に表示しなければならない。

  • 適切な例:「月額25万円(20時間分の固定残業代3万円を含む)」
  • 不適切な例:「月額25万円(固定残業代含む)」

 基本給金額は、残業代やボーナスの算定基準となる。あえて固定残業代部分を高く設定し、意図的に基本給を下げることで、残業代やボーナスの負担を軽くしようともくろむ意地汚い会社もある。後々の金銭トラブルの原因にもなってしまうため、この点を曖昧にしている会社にはくれぐれもご用心頂きたい。

(2)残業実態を把握し、固定残業時間を超過した分の残業代はきちんと支払っているか?

 「あらかじめ固定残業代を支払っているため、いくら残業させても残業代はチャラ」だと勘違いしている人は意外と多い。しかしこれは明確な誤りだ。決められた固定残業時間を超えて残業をした場合は、当然ながらその分の残業代を追加で支払わなくてはならない。当然ながら会社側は、残業時間も固定残業制の有無にかかわらず、キッチリ管理し把握しておく必要がある。

 たとえ特別条項付きの36協定を結んだとしても、労働時間管理を怠り、「総残業時間は年720時間まで」「月45時間以上の残業は年6回まで」「残業時間は単月100時間まで」といった規定を超過してしまった場合は、罰則として「半年以内の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科せられることになる。

(3)設定した固定残業時間未満の労働でも、固定残業代を支払っているか?

 さすがにここまでの誤解はないと思われるかもしれないが、まれに「固定残業として決められた20時間分の残業をしていないから、固定残業代は払わない」とする会社がある。

 当然、制度の趣旨として明らかに間違いだ。固定残業代は残業しようがするまいが、毎月定額で支払われる制度である。たとえ残業を一切せずに定時で帰ったとしても、決められた固定残業代が支払われなくてはならない。

 このように、労使ともに固定残業制についてきちんと理解をしておく必要がある。ぜひ効果的に活用し、それぞれのメリットを享受したい。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員にまつわるトラブル解決サポート、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。

著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。最新刊「クラウゼヴィッツの『戦争論』に学ぶビジネスの戦略」(青春出版社)


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