労働法制に詳しいアクト法律事務所の安田隆彦弁護士はこのように語る。
「固定残業制には落とし穴があり、それによって残業を事実上強制せさたり、固定枠を超えた場合には逆に残業代を請求しにくくしたりするような風土の会社もあります。また、規定した固定費のみもらっているが、それ以上に過酷な長時間残業を強いられる企業が出てくる可能性が高く、注意する必要があります」
この点も留意しながら、今回のサイバーエージェントの事例を、「問題ない点」と「疑義がある点」に分けて解説しよう。
・「月80時間分の固定残業代」は「長時間残業を強制される」わけではない
固定残業時間の設定が月80時間だからといって「毎月80時間の残業を強制される」というわけではない。あくまで設定上の上限値であるから、あらかじめ「80時間分の残業がある前提で、その分をみなしで払う」という意味でしかなく、早く仕事が終われば早く帰ればいい。
仮に残業ゼロで仕事を終えられれば、80時間分の残業代は丸もうけということになる。効率的に仕事を進められる人にとってはメリットのある条件なのだ。
実際、同社が公表している月の平均残業時間は「約31時間」。実情がこの通りであれば「月45時間以内」という法律の範囲内に収まっており合法であるし、社員にとっても約50時間分の残業代を余分にもらえているわけであるから、何も問題はないはずだ。
・固定残業時間として月45時間を超える設定は「無効」とされる可能性が高い
法の精神に照らして考えれば、月45時間を超える残業はあくまで「例外」の扱いだ。特別条項付き36協定を締結することで可能とはなるものの、それはあくまで「通常予見できない特別な事情が発生した場合に限って臨時的に許容」されるものだ。
従って、固定残業代を「月80時間」で設定しているということは、「通年で45時間を超える残業が発生する」とみなしているわけで、仮に裁判になれば無効とされる可能性が高い。その場合、固定残業代は基礎賃金として扱われることになる。
とはいえ、サイバーエージェント社の場合、「それだけの報酬を得るためには高いパフォーマンスを発揮しなければならない」とハードワークを覚悟した人物だけが入社しているはずだ。労務側でも、いちいち細かく労働時間を管理して残業代を精算するより、一括でドカンと払って思う存分仕事をしてもらったほうが都合がよい面もあるだろう。
同社にとっては、新卒から実質的な裁量労働制を実現できる、お互いにWin-Winな取り組みであるといえよう。
このように、固定残業制はあらかじめ一定の残業代が基本給に上乗せされるため、一見高額の報酬を用意しているように見え、求人の際に見栄えがよくなるメリットがある。その他、会社側は規定時間までは残業代の計算が不要になるし、労働者側は残業をしてもしなくても同じ金額が保障されるため、極力効率的に仕事を進めて早く帰ろうというモチベーションにつながる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング