サイバーエージェント「初任給42万円」の衝撃とからくり”固定残業制”の表裏(3/5 ページ)

» 2022年08月11日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

42万円の内訳は「基本給25万円+固定残業代17万円」

 この固定残業時間をもとに「42万円」を分解すると、内訳は概算で「基本給金額約25万円」「固定残業代約17万円」との計算になる。「42万円」という数字のインパクトが大きくて一瞬思考停止に陥りそうになるが、このように落ち着いて情報を精査してみると、「月額基本給が約25万円なら、規模の大きいベンチャー企業であれば一般的な水準かも」と捉えられるようになるはずだ。

 ここで気にかかるのが、「固定残業月80時間」との設定である。本連載の読者であればよくご存じの通り、労働基準法の改正によって、大企業は2019年4月、中小企業は20年4月より、残業時間には上限規制がかけられることとなった。

残業時間には上限規制がある(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 そもそも労働時間は原則、労働基準法で「1日8時間、週40時間」までと定められている。経営者はこの時間を超えて従業員を働かせてはいけない決まりなので、本来は「残業させること自体が労働基準法違反」となってしまうのだ。どうしても従業員に残業をさせたい場合は、労働基準法第36条の定めに従い、「労使間で協定を締結して届け出る」という準備が必要となる(36協定)。この手続きをして初めて、従業員に残業させても違法にならなくなるというわけだ。

 そして従前は法の抜け道があった。特別な事情があって労使が合意する場合にのみ可能な「特別条項付き36協定」を結べば、年間1000時間を超える残業でも青天井で命じることが可能だったのだ。先述の労働基準法改正はその上限にフタをして、文字通り「上限規制」をすることで、むちゃな長時間労働を不可能にしようとしたものである。

 改正後は労使間で36協定を結んでいても、上限は原則として「月45時間・年間360時間まで」となり、なおかつ「月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで」と決められた。さらに特別条項を結んでも、「複数月の残業時間平均は80時間以内」「年720時間以内」という基準を超えることはできない決まりとなっている。

 法的規制にのっとって考えると、固定残業として設定できる残業時間はせいぜい「月30時間」(年間上限360時間÷12)であり、多く見積もったとしても「月45時間」(単月上限時間)が上限であろう。それ以上の設定となると、「違法レベルの残業が常態化している」と捉えられても文句は言えない。

 今般のサイバーエージェント社における「80時間」との設定は、この基準を明らかに上回っているため、

「そりゃ、それだけ残業すれば給料も高くなるはず」

「月々の残業が80時間超えだと過労死ラインでは?」

「基本給が高いというより、固定残業代を高く設定して、見せかけの給与水準を上げてるだけということ?」

──といった批判的な意見も見られた。果たして、このやり方には何か問題があるのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.