トヨタ自動車の危機管理が称賛されている。
9月1日、トヨタは俳優・香川照之さんとの契約更新をしない方針を明らかにして、CM放映も停止した。週刊誌報道をきっかけに発覚した、銀座のホステスへの性加害を受けた対応なのだが、これが「さすが」だと評価されているのだ。
香川さんはトヨタのオウンドメディア『トヨタイムズ』の「編集長」として多数のコンテンツに出演しているのだが、それも9月1日にすべて閲覧できなくなった。もちろん、『トヨタイムズ』の中にはもはや香川さんの姿も名前も跡形なく消えている。
この思いっきりのいい「香川切り」が「世論の反応をよく分かっている」「さすがの危機管理」「ブランドイメージを守るためには、ちゅうちょなく損切りできるところがスゴい」などと、危機管理の見本として高く評価されているのだ。
このような話は、今回が初めてではない。トヨタといえば、「東京2020」の際にも「危機管理能力の高さ」が注目された。
コロナ禍で多くの国民が行動制限や自粛を余儀なくされる中での「強行開催」に批判が集まっていた中で、大会スポンサーの最高位であるワールドワイドオリンピックパートナーという立場でありながら、開催4日前にテレビCMの見送りと、豊田章男社長が開会式に出席しないことを発表したのだ。
世論を敏感に察知して、批判の矛先が自社へと向けられそうなリスクが少しでもあると分かれば、それまでどんな大金を突っ込んでいたとしても撤退する。そのような判断が迅速にできるところが、「さすが、トヨタの危機管理」と称賛されているのだ。
今回の件でも、トヨタの後にセゾン自動車火災保険、アリナミン製薬、東洋水産などが相次いで、香川さんとの契約更新を見送ると発表している。みな「危機管理のお手本、トヨタに続け」と言わんばかりなのだ。というわけで、メディアもこんな風に持ち上げる。
「トヨタ いち早く香川照之と決別!東京五輪でも光った機を見るに敏なブランド管理能力」(女性自身 9月2日)
ただ、企業危機管理を生業(なりわい)としている立場から言わせていただくと、今回の対応は“あのトヨタ”にしては、やや精彩を欠いていたと言わざるを得ない。
最後まで「できることなら香川さんとの契約を続けたい」という思いが強すぎるあまり、「トヨタはこれくらいの性加害はギリギリセーフだと思っているのでは」という批判を呼び込む恐れもあったビミョーな対応だったのだ。
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