トヨタの危機管理は「さすが」なのか 香川さんの「CM放映停止」スピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2022年09月06日 09時38分 公開
[窪田順生ITmedia]

「コンテンツ」を守りたかった

 「東京2020」のときに、選手村でトヨタの自動運転車がパラリンピックの日本代表選手と接触事故を起こした際、トヨタはマスコミの記者団に対応する前に、『トヨタイムズ』に豊田社長が出演して、状況の説明と謝罪をしている。本来何か不祥事に起きたら、すぐにマスコミに情報公開をするのがこれまでの常識だったが、トヨタはオウンドメディアでの発信を優先した。これに一部のマスコミが露骨に不快感を示している。

 『選手の出場機会を奪うという重大な事案にも関わらず、トヨタが事故を公表したのは翌日になってから。しかも、自社サイト「トヨタイムズ」で状況を説明した後に、豊田氏がマスコミの取材に応じただけで、正式な記者会見の場は設けていない』(産経ニュース 21年9月2日)

 そんな「トヨタ専用報道機関」のシンボルが香川さんだった。19年に編集長就任後、豊田社長やトヨタ社員たちにインタビューを繰り返して、実証都市「ウーブン・シティ」など最新の取り組みもレポートして、それらはすべて「香川編集長の取材記」として多数アーカイブされ、社内外多くの人に閲覧されていた。

香川編集長が「ウーブン・シティ」を取材(出典:YouTube、現在は非公開)
ウーブン・シティ(出典:トヨタ)

 トヨタとしては当然、これらの「トヨタの真実を追求した取材コンテンツ」を守りたかった。そのためにも、どうにか香川さんを「不問」にしたかったはずだ。

 しかし、ご存じのように、第一報から1週間後、『週刊新潮』で「二の矢」として女性の頭をつかんで満面の笑みを浮かべる香川さんの写真が公開されてしまった。

 あの生々しいビジュアルによって、擁護論は一気にトーンダウン。世論を「注視」していたトヨタも契約更新をしない方向だと表明せざるを得なくなり、9月1日以降、「香川編集長の取材記」は閲覧できなくなって、『トヨタイムズ』から香川氏の姿や名前は跡形なく消えてしまったというわけだ。

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