これはかなり異例の対応だ。これまで広告に起用していたタレントが不祥事を起こした際、大企業は迅速にCM放送を停止して、その後のことは検討しますという対応がセオリーだからだ。
では、なぜ香川さんだけは「特例」だったのか。実はそこにはトヨタ特有の「オトナの事情」がある。トヨタにとって、香川さんは単なる「広告に起用したタレント」だけではなく、オウンドメディア『トヨタイムズ』の「編集長」という重要なポストを担う人物だからだ。
というと、「いやいや、それは単に“編集長”というテイのイメージキャラクターであって、別に本当に編集長業務をしているわけじゃないだろ」と思うかもしれないが、トヨタにとって香川さんを切ることは、本物の編集長を更迭する以上に避けたかった事態だ。
豊田章男社長肝入りの自社メディアがこの3年間コツコツと積み上げきた「実績」をすべて台なしにしてしまうからだ。
19年正月にスタートした『トヨタイムズ』は、当初から「社長案件」だと言われてきた。マスコミに対して不信感の強い豊田社長が、メディアの記者に頼ることなく、自分たちで正しい情報を発信ができるようになることを目的としたプロジェクトだというのは、多くのメディアが報じているところだ。
実際、コンセプトも「トヨタの真実を取材で追求していく」というものだ。これはうがった見方をすれば、「既存マスコミはトヨタの真実を追求していない」とも取れる。
それを裏付けるような動きが続いていた。例えば、19年9月には月刊誌『FACTA』が、豊田社長と親交のある日経新聞の元トヨタキャップが半年間、トヨタの経営中枢で勤務すると報道、同誌によればこれは『トヨタイムズ』のコンテンツ制作力を強化することが目的だという。
また、22年4月には、テレビ朝日を退職した富川悠太アナウンサーが、「トヨタ自動車所属ジャーナリスト」になるという発表もあったが、これも自社の発信力強化が目的だという。つまり、『トヨタイムズ』は一般的なオウンドメディアのレベルを超えて、既存マスコミにとって変わる「トヨタ専用報道機関」としての役割が期待されているのだ。「大袈裟だ」と思われるかもしれないが、既にそのような動きがチラホラと見えている。
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