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「無借金経営こそ安心」の危険な誤解 “借り入れ恐怖症”の企業が陥るワナ支払金利は“保険料”と心得よ(4/7 ページ)

» 2022年10月12日 13時00分 公開
[研修出版]

中小企業にとって「利息」は「保険」と考える

 今回のコロナ禍のように、突然経済の「荒波」に襲われることがあります。その意味でも、「現預金はいくらあってもよい」が正解なのです。

 「余剰資金」などという考えは中小企業には当てはまりません。「借入れに頼らなくとも、利益が十分に出ていて現預金が余って仕方がない」という企業を除いて、「資金が余っている」と考えるのは「油断」といっても過言ではありません。

 少しでも資金が余っていると感じると、借入れを一括返済して借金を減らそうと考えたくなるのは、心情的には理解できます。しかし、「返すのは簡単だが、借りるのは大変」ということを忘れないでいただきたいのです。

 もう1点、「あるうちに返してしまおう」という中途一括返済は、じつは銀行に「契約違反=約束を守らない」(さらに銀行としてはあてにしていた利息収入も減ってしまう)とマイナスに評価されることの方が多いということも覚えておいてください。借金を減らしてよいことは1つもありません。

 借入金残高から現預金残高を差し引いた「実質借入金ゼロ」を目指し、これを達成したらよしと考えるべきです。

 「資金繰り」を改善する方法として、いろいろな本に「売り上げの回収を早める」「在庫をなるべく持たない」「支払いはできる限り引き延ばす」などと書いてあります。しかし、自社の入金サイトの短縮は、取引先の支払いサイトの短縮を意味し、自社の支払いサイトの延長は、得意先の入金サイトの延長を意味します。ですから、全ての企業が経営分析の教科書に従って行動した場合には、必ず利害が対立します。

 ですから、企業の努力でどうにかできる在庫を除いて、取引先との力関係を考えた場合、こちらからお願いすることができる余地は小さく、現実的でないことがほとんどです。結局、銀行借入れで運転資金を潤沢に持っておくのが、唯一の方策という結論に行きつくことになるのです。

 場合によっては、必要最低限の運転資金を計算して、最小限度の借入れで資金を回すことは可能かもしれません。しかし、いまの時代、中小企業でも1%台という低金利で融資を受けることが可能です。1000万円借りても月々の金利負担は1万円程度で資金調達ができる時代に、「利息」と、「資金繰りをギリギリで回すべく計算をする従業員の人件費」と、どちらが経済的かを比べてみてください。よほど借入金が大きくない限り、金利の方が低いことをご理解いただけるはずです。

 表面的な「もったいない」に惑わされないでください。中小企業にとって、利息は資金不足に陥らないための保険と考えるべきです。

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