昨今、「住む」以外の機能を備えた賃貸住宅が増えている。ワークスペースはもちろん、サウナやシアタールームまで兼ね備えた物件――といえば、驚く読者も少なくないだろう。背景には、コロナ禍で働き方、暮らし方が変化したことで住まいに求められる機能が拡大していることがある。新たなコンセプトによって変わりつつある賃貸住宅事情やビジネスの最前線を追った。
もともと、日本の賃貸住宅経営は個人の土地所有者が土地を利用するために始めた小規模なものが多かった。ところが2000年以降、法人が安定的な収益が得られるビジネスとして次々に参入。ここ10数年は古い社宅、寮などをリノベーションする動きも増え、それに応じて単に住むだけではなく、プラスαの住まいを作ることで差別化を図る動きが明確になってきている。
特に05年以降のシェアハウスの増加はその傾向に拍車を掛けた。居住空間自体にそれほど差異がないシェアハウスでは共用部をどう作るかがポイントとなる。同様の考えはシェアハウス以外にも広まり、住まいで過ごす時間を豊かに過ごすことや、他の入居者とのコミュニケーションを意識した施設が多数作られるようになってきている。
ところが、コロナ禍で事情が一変した。居室に「住む」以外の機能が持ち込まれるようになってきたのである。それを筆者が実感したのは22年8月に株式会社リビタが杉並区阿佐ヶ谷で開いた、単身者向け賃貸住宅の新シリーズ「Well-Blend阿佐ヶ谷」のプレス向け内覧会だ。同社が既存のシェア物件入居者を対象にしたアンケートによると、自室で仕事をするようになった人は従来の41.4%から73.6%に増加、同様に食事が44.3%から67.1%、運動が10.7%から26.4%と増えたのだという。
変化が特に顕著なのが仕事である。コロナ禍で在宅ワークにシフトした人も少なくないだろうが、そこで問題になるのが空間に関するあれこれ。狭い空間で終日過ごすことのストレス、家族や来客との関係その他にイライラしているビジネスパーソンも少なくないはずだ。
それに対応するように、ここ2年ほどでワークスペースを備えた賃貸住宅が登場してきている。具体的には、共用部あるいは自室にワークスペースを設ける形だ。前述のWell-Blend阿佐ヶ谷では、ワークスペースを共用部に設けている。
同物件は社員寮(用途は寄宿舎)だったものをリノベーション。1階に共用部があるのだが、そこにリモートワーク向けとして2種類のワークスペースが用意されている。一つはオープンラウンジと呼ばれるカフェ風の空間。それほどの集中が求められない、多少の会話をしながらでも進められる作業に向いた場所である。
もう一つは、半個室のワーキングスペース。集中して作業したいとき向けで、事前に予約が必要となっている。また、屋上でもWi-Fiが使えるので、気分を変えて野外で作業という手もある。
共用部に仕事場を設ける物件ではこうした2タイプのスペースが設けられていることが多く、半個室ではなく、小さいながらも完全な個室を作っているところもある。加えて会議室、リモート会議用のブースがある物件も出てきているようだ。
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