進化する賃貸住宅 ジム、サウナに“映画館”付の部屋まで登場 「住む」だけじゃない付加価値のイマ“おうち時間”増加も影響(4/4 ページ)

» 2022年10月19日 05時30分 公開
[中川寛子ITmedia]
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 名古屋を拠点に東海3県で賃貸住宅を管理、運営する株式会社ニッショーの「&room」というシリーズでは、2DKのうち1部屋を映画館と同じ椅子を4脚配したシアタールームやワンルームのど真ん中にアイランドキッチンを配したクッキングルームにするなど、他の不動産会社ではまず見ないようなものをラインアップしている。キワモノと思われるかもしれないが、きちんと入居者はおり、自由に発想すれば賃貸住宅にはまだまだ可能性があることが分かる。

洋室7畳に映画館で使われているものと同じ椅子を配置して、映画館仕様にしたシアタールーム。ドリンクホルダー、足元照明、部屋の入口のネオンサインまでこだわって作られている(提供:ニッショー)

 ちなみに同社の物件検索では「モーニングができるお店が近い」「日当たりを気にしない」「激安スーパーが近い」など、他では見られないタグがあり、生活に応じた選び方が可能だ。大手不動産ポータルでの検索では家賃、駅からの距離や専有面積などといった数字が基準になりがちだが、生活にはそれ以外の要素も多々ある。そこまで含めた検索ができることが対大手戦略と考えると、同社のやり方には学ぶべき点が多い。

「転貸」「店舗営業」OKの物件も登場

 建物だけに限らず「借り方」「貸し方」などといった従来の仕組みそのものを変えることを付加価値とし、差別化している物件もある。

 大田区東蒲田にある一級建築士事務所ビーフンデザインと一級建築士事務所マツによる物件には、他の人に貸せる、また店舗を営業できる部屋がある。通常の賃貸物件は、賃借した上で他人に貸す「転貸」は契約違反となり、退去を求められる要因にもなるが、同社の物件では、借りた部屋を使って堂々とお金を稼げるのである。

 風呂のある居室とキッチン、トイレにカギをかけて別空間とすることができ、キッチン・トイレをパーティースペースなどとして貸したり、週末に店舗として営業できるようになっているのである。

 この他、ビーフンデザインは上階の住居を借りると階下で店舗を運営できる物件なども提供しており、コロナ禍でこうしたニーズが増えていることを実感しているという。副業、複業が許容されつつある中、それに応じた物件が増え、仕事を続けながらやりたいことにチャレンジできる物件が増えてくれば、個人の働き方のみならず、社会、経済にも影響が及びそうである。

 旅行などで部屋を使わない際、借りた部屋を「宿」として貸せる賃貸住宅もある。株式会社Unitoが展開しているリレントという仕組みが代表的で、「宿」として貸した日数分(物件により貸せる日数に上限あり)は家賃が安くなる。

 リレントの対象となる物件は家具・家電付きで、その分、賃料は高めだが、通常の賃貸契約で必要な敷金・礼金等の初期費用が不要で家具・家電をそろえる必要がないことを考えると、この方が得という人もいるはずだ。住民票などの書類を用意せず、オンラインで契約、退去が可能という手軽さも他にはないメリットといえる。その気軽さから、都心と郊外の2拠点居住、多拠点居住、単身赴任のための利用や、お試し同棲という使い方もあるとか。ニーズは意外なところにあるわけだ。

 以上、最近の賃貸住宅の多様化、付加価値の現在を見てきた。最も目立つのは働く場を付加する動きだが、一部には法人登録できる賃貸住宅も出てきており、働き方という切り口だけでもまだまださまざまなやり方があり得るだろう。さらに眺望、健康、リラックス、趣味などとニーズのあるキーワードを付け加えていけば、賃貸住宅はまだまだ進化できる。というより、進化を期待したい。

著者プロフィール

中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。

40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。

主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。


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