レオパレス21「赤字686億から復活」の大きな誤解 施工不備問題が残した“傷跡”と未だ苦しい実態妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(3/6 ページ)

» 2022年10月26日 05時00分 公開
[妄想する決算ITmedia]

カギは「引当金」

 実はその大きな要因の1つが今回のトピックである「引当金」です。引当金とは、大まかに説明すると「将来起きる可能性の高い損失を先に計上しておく分のお金」です。これによって、例えば「施工不良で将来100億円損失が出そうだから、先に100億の損失を出しておく」ことができます。

 そうすると、100億円の損失を先に計上した年は、将来分の損失分も加わり実際の事業の状態の悪化以上に大きな赤字になります。このため「引当金」が大きな赤字に影響してくるわけです。

 こうしたことをする理由は、「将来、このぐらい損失が出ます」と利害関係者に情報開示するための他、社内で実態把握をするために重要なためです。

 もし今後施工不良問題への対応にどれほどの金額がかかるのか全く分からないという状況であれば、投資家であれば投資判断は難しいですし、銀行であれば融資も難しいですよね。取引先としても、取り引きの継続をしていいか困ります。そのため、先に見通しで損失を出し、判断材料にしてもらう必要があるのです。

 では、あらためてレオパレスの例を見ていきましょう。

photo 2019年3月期決算短信より

当時想定した損失は600億円規模

 実際の決算書を見てみると、レオパレスが大幅な赤字となった19年3月期は補修工事関連損失引当金繰入額が507.0億円もあり、さらに空室損失引当金繰入額が96.8億円となっています。これらは引当金による影響を表しています。つまり、引当金による損失が計603.8億円もあったのです。

 レオパレスは施工不良問題が発覚したことによって、いきなり大きく実際の事業にダメージがあったという事ではなく、今後の空室や改修工事などで将来大きなコストがかかることを見越してその損失を「引当金」という形で603億円も計上していたので、大幅な赤字となっていたのです。これが、入居率は高水準でも大幅な赤字になっていた理由です。

 ちなみに「補修工事損失引当金繰入額」は20年3月期にも215億円となっていて、20年3月期においても、赤字の大きな要因の1つが、将来かかるコストの見通しが増えたことによる「引当金」だったと分かります。

 また、「引当金」による損失は見通しで先に計上しているため、補修工事などで実際にお金の支払いが必要になるのはその損失が出た後になります。つまり利益の額と実際の資金の動きに乖離(かいり)が生じやすくなります。

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