――「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」。この3つが基本なのですね
川田: 怒りの感情を持っていない人はいません。誰もが皆持っている感情です。だからこそ、怒りを我慢するのではなく、いま目の前の怒りが怒る必要があることなのか、怒る必要がないことなのかを線引きするために、この3つのコントロールがとても大切なのです。
怒りについてメモをとり、言語化すると言いましたが、このとき、怒りの度合いを1点から10点までで点数化するのも、非常に効果的です。人生最大の怒りを10点とすれば、いま目の前で起きた怒りは何点だろうか、と考えます。
私たちは周りを尺度で囲まれて生活しています。例えば「最高気温が5℃を下回るならば厚手のコートやダウンを羽織って出かけよう」「体温が37℃あれば、熱があるから外出を控えよう」「降水確率の予報が30%であれば折り畳み傘を持って出掛けよう」などです。
一方で、怒りはいままで「怒った」か「怒らなかった」かしかありませんでした。いままで無かった怒りの尺度を自分で残すことで、未来の自分が過去の怒りの点数を見たときに、対策が取れるようになります。「同じような怒りが1カ月前にもあったな」と振り返ることができ、同じ怒りを招かないように予測しながら行動できるようになるのです。
――多様性が重んじられる昨今、上司と部下の価値観も異なり齟齬が生じるシーンも多いかもしれません
川田: 上司は上司の価値観で100点満点です。同じく、部下も部下の価値観で100点満点です。上司、部下、新人それぞれに価値観があり、それぞれの意図があって仕事をしています。上司の意図にそぐわない行動を部下が取ることもあり、齟齬が生じるのは当然です。
では、責任者である上司はどうすればいいかというと、価値観のすり合わせをした上で、チーム全体の価値観を作ればいいのではないでしょうか。「せめてこれぐらいならいいよ」という大まかな価値観を共有し、その上で外れたことすれば「上司の私が指摘するよ」というルールを構築すれば、建設的なチームづくりができるのではないでしょうか。
――自身の怒りの感情に悩むビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします
川田: 勤務先から高い数値目標を求められたり、円安・物価高などに伴う生活上の不安や、将来への不安を感じたりしている人も多いと思います。
こうしたご時世にあって、怒りの感情を我慢して抑えている人はきっと多いのではないでしょうか。喜びや楽しみといった感情は、ゆっくりと膨らませることができますが、怒りの感情は、何か突発的なことがあると急に膨らむものです。
だからこそ、怒りの感情も我慢するのではなく、素直に受け入れてほしいと思います。自分の思いについて「せめてこうならいいな」「こういう考え方もあるよ」という具合に、うまく相手に伝えられるような方法を身につけてもらえると、仕事でもプライベートでも、より生きやすくなるのではないでしょうか。
1977年生まれ。埼玉県熊谷市出身。東京都台東区在住。
大学卒業後の約20年間、防犯カメラや万引防止システムのセールス活動に携わる。トップセールスや社長賞など多数の受賞経歴。中間管理職として組織のマネジメントを携わった際に、ストレスによる怒りでパワハラに及ぶなど、怒りで多くの失敗を重ねた経験を持つ。
自身の心の体質改善を目指し「アンガーマネジメント」を取り組んだことが人生の転機。2020年9月に独立し「office TIDA」を開業。「心を整える」をテーマとした研修やコンサルティングで、アンガーマネジメントの普及に取り組んでいる。怒りで失敗した体験談を踏まえた講座・研修には定評があり、年間受講者数延べ約500人以上。 一般向けの講座、および企業・団体向け講演を年間120回開催している。
日本アンガーマネジメント協会監修書籍「アンガーマネジメントトレーニングブック2023年版」(ミネルヴァ書房)プロジェクトメンバーに参加。執筆活動も行なっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング