JR仙台駅から東に伸びるアーケード街を歩くこと約10分。中央通りの手前にある角の店に行列ができている。小さな子どもを連れたファミリーやお年寄りなどが並ぶ。すぐ横のベンチでは、出来立ての商品を頬張っている姿も。
ここは老舗かまぼこ会社、阿部蒲鉾店の本店。人々がこぞって買い求めているのは、「ひょうたん揚げ」だ。ひょうたん揚げとは、かまぼこをアメリカンドックのような衣で包み、それを串に2玉刺したもの。形がひょうたんに見えるから、その名がついた。
発売は37年前。一日に約4000本を売ることもある。新型コロナウイルスが発生する前は、本店だけで年間27万本ほど売り上げていた。今ではすっかり仙台名物になって、地元の人たちや観光客が買いにやってくる。なぜこれほどまでに人気なのか。その秘密に迫る。
ひょうたん揚げは、1985年に開催された「伊達政宗公350年祭 青葉まつり」で初めて登場した。
青葉山公園に城下町の街並みを再現したこの祭りは、37日の間にさまざまな催事を行った。また、翌年からは名称を「仙台・青葉まつり」として、以降は毎年5月に仙台の文化や伝統などに触れられる祭りとして開催されている。阿部蒲鉾店はその第1回にひょうたん揚げを出店したのである。
「それまでも笹かまを串に刺して炙った商品はありましたが、お祭りに普通の笹かまを売っても面白くないから、ワンハンドで食べられる何か別のものを作れないかという意見がきっかけだったそうです」と、阿部賀寿男社長は説明する。当時はまだ阿部社長も大学生で、入社はしていなかった。
いろいろと社内で議論した後、縁起物としてひょうたんの形をした商品がいいのではとなった。ただ、発想の良さとは裏腹に、商品開発は一筋縄ではいかなかった。
「きれいな丸型を作るのが非常に難しくて。今も衣は手付けですが、ひょうたんの形にするには技術や習得の時間が必要です。アメリカンドックみたいな形状であれば簡単ですが、あの生地でひょうたんに仕上げるのは大変なのです」
試行錯誤の末に完成。同社としてもファストフード商品を出すのは初の試みだった。阿部社長自身も驚いた。
「普通の笹かましか売っていなかったので、試作を食べてみろと出されて、びっくりしましたね。うちがこんなの出すんだと」
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