“黒船”にも飲み込まれず 5坪の店から始まった秋田のパン屋が90億円企業に成長した軌跡地域経済の底力(1/5 ページ)

» 2022年09月21日 10時37分 公開
[伏見学ITmedia]
「コーヒー」や「学生調理」など、たけや製パンを代表する商品の数々

 コンビニや食品スーパーに所狭しと並ぶパン商品の数々。昼時を過ぎると棚が空っぽになっている光景を目にしたことのある人も少なくないはずだ。

「アベックトースト」

 もはやパンが日本人の主食であることに異論を唱える人はほとんどいないだろう。総務省の家計調査によると、二人以上の世帯における年間支出金額で、パンが米を上回ったのは2011年。その後、差はどんどん開いていき、21年はパンが3万1353円、米が2万1862円となっている。

 市場規模も増加傾向にある。調査会社の矢野経済研究所が発表した国内パン業界の市場データ(メーカー出荷金額ベース)では、20年度は1兆5262億円で、23年度には1兆6000億円を超えるという。

 メーカー別に見ると、1位は山崎製パンで、21年12月期の連結売上高は1兆530億円。2位のフジパングループ本社が2651億円(21年6月期)、3位の敷島製パンが1543億円(21年8月期)。山崎製パンがダントツのトップという状況だ。

 この巨人に対して、これまでに幾多ものメーカーが競争に敗れて廃業したり、傘下に入ったりした。8月末にも、山崎製パンが神戸屋の包装パン販売事業などの買収を発表したことは記憶に新しい。

 50年以上前、秋田市に本社を構える「たけや製パン」も、こうした危機に直面していた。しかし、結論から言うと、たけや製パンは生き残り、現在は売上高90億円前後と、全国の製パンメーカーの中でも有数の規模になった。秋田県内でのパン市場の占有率は約6割、学校給食のパンでもおよそ6割が同社の商品である(前編「年間売り上げ4億円 秋田のソウルフード「バナナボート」が60年以上も売れ続けるワケ」参照)。

秋田市内のたけや製パン本社

 ピンチを乗り越え、ここまでの成長を遂げたのは、創業者・武藤茂太郎氏の決断力と人間性が大きい。

 「うちの親父が常に言っていたのは、『いまやらねばいつできる。わしがやらねばたれがやる』。平櫛田中さんという明治時代の彫刻家の言葉ですが、この通り、とにかく積極的な人だった」

 茂太郎氏の息子で、現在たけや製パンの社長を務める武藤真人氏はこう振り返る。

 この挑戦意欲の強さこそが、たけや製パンのコアコンピタンスであり、今も受け継がれている。その源泉を探るべく、茂太郎氏、そして同社の歴史をひもとく。

中高生の意見を元に開発された「学生調理」
「学生調理 ちょうどいい大きさ」
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