すき家の「深夜の自主トレ」は許されるのか 駐車場で店員2人が接客スピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2022年12月06日 11時26分 公開
[窪田順生ITmedia]

会社側に落ち度がなかったとしても

 「バイト本人が望んでやっていることなんだから店にはなんの責任もない、おかしなイチャモンをつけるな!」と不愉快になる人も多いだろう。

 ただ、本人が望めばなんでも許されるわけではない。特に今は、バイト本人から「深夜に駐車場で指導をしてください!」という感じでどんなに強い要望があったとしても、店側は従業員の健康に配慮した対応をしなくてはいけない時代になっている。

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 それを誰よりもよく分かっているのは、実は「すき家」なのだ。

 2022年1月、「すき家」のパート女性がワンオペ勤務中に倒れ、3時間放置された後、死亡していたということが『文春オンライン』によって明らかにされた。「すき家」のワンオペは14年に大きな問題となって深夜帯では禁止されていた。しかし、この女性が亡くなった朝帯(5時〜9時)では一部店舗で続いていたのである。

 ただ、女性の死に対して「すき家」には明確な落ち度はなかった。まず、死亡する直前まで女性の労働時間は法定の労働時間内だった。さらに、ワンオペ時に不測の事態が起きた場合に備えて、「すき家」としては「ワイヤレス非常ボタン」を常時装着し、本部とすぐに連絡を取れるように指導していたが、女性はこの「非常ボタン」を装着していなかったのだ。

 また、このワンオペ勤務の女性は複数の店舗を掛け持ちするなどかなりハードに働いていたのだが、そこについて『文春オンライン』の取材に対して、「すき家」は長文の回答をしている。以下に引用しよう。

 『複数の店舗で「助っ人」として召集され一人勤務していたという点ですが、事前の契約に基づき本人同意の上、別の店舗で勤務していただいた実績はあります。○○さんは相応の収入が必要とのことで、一店舗での勤務では叶わないことから、本人の申し出をいただいて勤務していただきました』

 ワンオペ勤務も、複数の店舗をかけもちで働いていたのもすべては女性が自分で望んだ「働き方」だというわけだ。もっと言えば、女性は健康診断も受けていなかった。「すき家」が指導をしていた「非常ボタン」も持っていなかった。つまり、このパート女性の死というのはすべて「本人が望んだ働き方の結果」であって、「すき家」にはなんの非もなかったという見方もできるのだ。

 しかし、この報道があった後、「すき家」は全店でワンオペを廃止した。なんの落ち度もないのだからそこまでしなくてはいいはずなのにやめてしまったのだ。これはつまり、バイト従業員がどんなにハードに働きたいと希望しても、店側は健康や労働環境に「配慮」しなくてはいけない時代になったということだ。

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