なぜこういう精神論がまかり通ってしまうのかというと、戦後日本ではスポ根的な精神論を唱えても、人口ボーナスの追い風で「結果」が伴ったからだ。
アニメ『巨人の星』が一世風靡(ふうび)して、大人も子ども「血の汗流せ、涙をふくな」と大合唱していたとき、ちょうど日本はGDPでドイツを抜いて、米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった。
これが今に続く「悲劇」の始まりで、これによって日本人の多くは「努力は報われる」「根性で乗り越えられないことはない」という思想に取りつかかれた。しかし、実はこのタイミングは日本が先進国の中で、米国に次ぐ人口大国になったときだ。ある程度の経済規模になると、先進国のGDPは人口にほぼ比例する。日本がドイツのGDPを抜いたときも、日本がドイツの人口を上回ったときで、技術力も「根性」も実はそれほど関係がないのだ。
「若者はホワイトすぎる企業に嫌気が差している」というニュースは、こういう日本人の勘違いを再び復活させてしまう恐れがある。
人口増時代に根性論を振りかざすことはそれほど「害」はない。しかし、人口減少時代に根性論を振りかざすことは破滅への一直線だ。いくら血の汗を流しても「結果」が伴わないので、国民は疲弊していくだけだ。
日本人は苦しくなると精神論にのめり込む傾向が強いので、ちょっと気を抜くと、「やっぱりブラック的な働き方も必要だな」なんてムードが盛り上がってしまう。
人口が急速に減少する今だからこそ、ビジネスの世界も安易な精神論・根性論に傾かないように注意が必要ではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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