豊島区が漫画やアニメに理解がないわけではない。サンシャイン60の付近には、オタク女子が集まる「乙女ロード」と呼ばれる一角があるが、観光名所の1つとして、区の公式Webサイトでも力を入れて紹介されている。
また、20年3月には、手塚治虫ら昭和の漫画家が若手の頃に暮らした伝説のアパート、南長崎のトキワ荘を再現し、「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」を竣工している。
豊島区のまちづくりの成果は、むしろ西口駅前の池袋西口公園の整備を見れば、よく分かるかもしれない。かつて同公園は、援助交際少女のたまり場で危険な雰囲気が漂っていたが、今はカップルが集まってくるような場所になった。
東口側の豊島区民センターなどに隣接する中池袋公園なども、快適に整備されている。
池袋の街なかでは、JR九州「ななつ星in九州」のアートワークを担当した水戸岡鋭治氏デザインの真っ赤なEVバス「IKEBUS(イケバス)」がゆっくりと走り、池袋駅の東口・西口とサンシャインシティを結ぶようになった。街全体がワクワクする感じになってきた。
都電が走る大塚駅前も、南口に続いて北口も、居心地よい空間に蘇生された。
素晴らしいのは、豊島区が保育園の待機児童ゼロとなっていることだ。区は「子どもと女性にやさしいまち」を目指すとして、子育てがしやすい環境づくりを実践している。
このような改革で、豊島区の人口は住民基本台帳によると、14年の27.2万人から、20年には29.0万人まで増えた。ところが、21年と22年は2年連続して減少。現在は28.3万人となっている。
ここで、池袋東口が完全に秋葉原化されると、女性が減ると予想される。豊島区に住みたいという人も今より限られてきて、どんどん人口が減る可能性もある。
西武池袋店は、誰が見ても池袋の象徴のような存在。この店が無くなって、今の「SEIBU」のデカデカとした看板が「Yodobashi-Ikebukuro」に掛け代わるとどうなるか。西武池袋線池袋駅のターミナルビルが、「Yodobashi-Ikebukuro」として認識されることになる。
西武池袋線に住んでいる人の多くは、旧セゾンが醸し出す文化のイメージを好んでいたのではないだろうか。西武百貨店は西武鉄道の本拠地である所沢にもある。池袋も所沢も、ヨドバシに変わることに、西武沿線の住民は心の底から納得するだろうか。
高野区長の発言が、一部を切り取られて伝播している。
西武ホールディングス・広報では「池袋は国際的なアート・カルチャー都市として、そのコンセプトを大切にしたい。ヨドバシの情報発信力、集客力、デジタル世代への文化発信力と良い形で融合させていきたい」と、妥協点を示せるとしている。
ヨドバシは大阪では、リンクス梅田という商業施設と一体になった施設を運営している前列もある。百貨店やブランドショップと融合させた施設の構築も、可能ではないだろうか。
【お詫びと訂正:2022年12月28日午前6時45分の初出で、百貨店別売上高ランキングの記述に間違いがありました。12月28日午前10時、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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