値上げしたスシロー、値上げしなかったサイゼリヤ…… 話題のトピックから見えた外食産業の苦悩と未来長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)

» 2023年01月05日 06時34分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

ファストフードは好調

 さて、外食全体ではコロナ前の売り上げにまでようやく戻ったとして、その内訳はどうなっているだろうか。22年11月の概況を見てみたい。

 ファストフードは、全体売り上げが21年比で109.2%、19年対比111.6%。さらに細かく見ると、21年比で洋風111.7%、和風108.1%、麺類106.8%、持ち帰り米飯/回転寿司106.5%、その他105.1%となった。どの業態も万遍なく好調なのがファストフードで、ハンバーガー、牛丼、うどん、回転寿司、カレーなど、全てよく売れた。特に、洋風はサッカーW杯にちなんだ期間限定商品などがけん引し、テークアウトやデリバリーが動いた。

ハンバーガーはテークアウト、デリバリーが好調だった

 ファミリーレストランは、全体売り上げが107.5%、19年対比93.9%。21年に比べれば回復が著しいものの、コロナ前まではもう一息というより、二息くらい足りない。厳しい状況だ。さらに細かく見ると、洋風108.9%、和風108.1%、中華109.3%、焼肉100.2%。焼肉は食べ放題、1人焼肉が好調だが、夜間の顧客が思ったほど戻って来なかった。

 パブ・居酒屋は、全体売り上げは21年対比114.7%、19年対比61.4%。売り上げを押し上げているのは個人客で、21年に比べれば2桁増になっている。しかし、法人の宴会需要や深夜帯の需要が戻ってきていない。今後も、コロナ前に比べて、上限で8割くらいまでしか戻らないのではないかといった観測が業界内でも強い。細かく見ると、パブ・ビアホール124.4%、居酒屋110.2%。パブ・ビアホールではサッカーW杯観戦需要、居酒屋はコロナ拡大を見越した忘年会の先取り需要が盛んだった。

 ディナーレストランは、売り上げは21年対比108.1%、19年対比84.5%。全国旅行支援、インバウンドの効果によって客数は増加している。しかし、人手不足による営業時間短縮、コロナによる密にならないための入店者数の制限、そもそも夜の顧客が戻らないといった理由で、コロナ前に比べればまだまだ物足りない。

換気の良いテラスでの飲食はニーズが高まった

 喫茶は、21年対比111.4%、19年対比87.2%。こちらも昼の営業は好調だが、夜の顧客が戻ってきていない。

 全般にいえることは、昼の営業についてはもうコロナ前に戻っていて、問題ない。課題は、等しく夜の顧客が伸びないことだ。全国の繁華街で、「夜が早くなった」「夜の10時頃にはもう人がいない」といった声をよく聞く。つまり、夜に今まで2回転していたのが、1回転に減っている。一時期、夜に酒を飲むと感染が拡大するとして、政府が時短と禁酒をセットにして自粛を求めていた後遺症は、非常に深刻だ。

外食の売上全体はコロナ前に戻ったが、夜間の売上は厳しい

 12月の結果を見てみないと分からないが、忘年会の開催は21年よりは急増しているものの、コロナ前より7割も戻っているかどうか。開催しても、以前のような大人数ではなくて、せいぜい10人くらいまでの少人数の集まりにシフトしている。

 23年1月の新年会も、同様な傾向が続く模様。第8波や感染拡大をカウントしている間は、3密(密閉、密集、密接)を避けようとするのは当然の行為だ。宴会需要が無くなりはしないが、開催しても少人数が主流という傾向は続く。

宴会需要の戻りは悪いが、1〜4人の少人数の飲食は好調

 このまま、夜の街が活気づくのは午後9時まで、しかも1人飲み、2〜4人の親しい知人・友人の集まりで飲んで、はしごをせずにさっさと帰るという習慣が、根づいていく公算が高い。

 朗報は、世界的な和食人気もあって、世界各国で日本を旅行したいと考えている人が多いことだ。さまざまなランキングで旅行先として人気1位となっている。訪日外国人は、夜の飲食も気にしない。

 日本はバブル崩壊以降は、デフレ型経済で経済成長率が世界トップクラスに低く、先進国では最低水準の物価といわれる。しかも円安。インバウンドが爆発すれば、バー、居酒屋など、夜にお酒を飲ませる業態が一気に回復できる可能性がある。

インバウンドの盛り上がりに期待

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