値上げしたスシロー、値上げしなかったサイゼリヤ…… 話題のトピックから見えた外食産業の苦悩と未来長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)

» 2023年01月05日 06時34分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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DXをどう導入するのか

 22年は外食へのDX導入の在り方が問われた年でもあった。

 コロナ禍での需要を開拓するために、非接触を徹底した「ブルースターバーガー」が22年7月31日に全店閉店した。同店は、店頭のタッチパネルと、モバイルオーダーで注文を受け、決済は現金を受け付けずキャッシュレス。店内飲食は最小限にとどめて、テークアウトとデリバリーに特化した、

 ブルースターバーガーは「焼肉ライク」がヒット中のダイニングイノベーション(東京都渋谷区)の新業態で、20年11月10日、東京の中目黒にオープン。フードテックを駆使して経費を削減し、その分の原価率を上げて、低価格・高品質のハンバーガーを実現した。当初の反響はすさまじく、店頭のタッチパネルで注文を受けてから、2時間待ち、3時間待ちも当たり前であった。

 ところが、全国に2000店を展開するはずが、最大で4店にとどまった。

外食DXに挑んだブルースターバーガーは全店閉店に

 失敗の要因は単純に言い切れないが、飲食DXに詳しいレストランテック協会(東京都千代田区)山澤修平代表理事は次のように分析する。

 ブルースターバーガーは、ITを駆使した業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルの変革に向かっていた。しかし、その手前の段階で、原材料の高騰などの想定外の外的環境変化の影響により、撤退を余儀なくされた。蓄積されたデータを活用しての顧客満足度向上へと到達する道を阻害する、コスト高が痛かった。

 また、飲食店向けオンライン予約システムのテーブルチェック(東京都中央区)の谷口優代表取締役は、「接客不要のシステムには、何を注文すべきか悩んでいる顧客にアドバイスができないし、単価が上げにくく、リピートにつながりにくい。新規顧客の獲得に広告を投下しつづけなければならない」と指摘する。接客を省けば、広告費の負担がかさむのだ。

ブルースターバーガーは効率化を進めた分で原価を高めた

 国内発のフードデリバリー、Chompy(チョンピー、東京都目黒区)大見周平代表取締役は、アプリの性能や使いづらさに問題があったとする。App Storeのスコアはリリース時には2.0前後、リニューアル後も1.3と、非常に評価が低かった。

 外食DXの専門家から見ると、完璧に見えたブルースターバーガーのシステムには改善すべき点が多々あったことが見えてきた。最終的には、店内飲食のスペースを充実させたり、現金でも注文できるタッチパネルを用意したりと、コンセプトがブレていた。ブルースターバーガーは反省を踏まえ、ぜひ再チャレンジに挑んでほしい。

 フードテックとしては、22年は配膳ロボットが本格的に普及した。ガスト、ジョナサン、バーミヤンなどのすかいらーくグループでは、ネコ型ロボットが「店員」の一員として活躍する姿を見るようになった。焼肉の和民、寿司・和食の「がんこ」の店舗などでも、有効活用されている。23年は、調理ロボットなども含めて、さらにフードテックが進み、それらを効率的に管理して生産性を上げるスマート飲食店が増えるだろう。

すかいらーくの各店ではネコちゃんロボットを導入(出所:プレスリリース)

 以上、22年を振り返り、23年の外食に関して、若干の予想をしてみた。さらなる値上げ、人手不足は続くが、フードテックの活用が進み、インバウンドには大きな期待が持てる。

 付け加えれば、和食人気を背景に、外食の海外進出が一層加速するだろう。既に「丸亀製麺」では世界で最も売り上げが大きな店は、ハワイの店舗だという。

モスバーガーの一頭買い黒毛和牛バーガー。12月28日から発売中、690円。100万食限定でヒット中(出所:プレスリリース)
ラーメン、中華の業態も好調に回復してきた

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。


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