好調の「すし居酒屋」チェーン どんどん増える「や台ずし」「杉玉」は何がすごいのか?長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)

» 2023年02月07日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

スシロー系列の「杉玉」

 杉玉が誕生したのは2017年。回転すし各社が店舗を増やしてきたこともあり、この頃のすしは明確な日常食になっていた。

 江戸時代、すしは屋台で食する庶民の料理だったが、いつしかお祝い事など特別な日に食べる、高級な非日常食に変質していた。それが回転すしが台頭する前のすし店の実態だった。今でも「一見さんお断り」といったように、ハードルが高い高級店も少なくない。

 回転すしは、すしを再び日常食に戻す役割を果たした。スシローでは「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」をスローガンに、おひとりさまでも、少人数のグループでも、気兼ねなく行ける店を構築した。

 しかし、回転すしが郊外ロードサイドを中心に展開されたこともあり、すしと一緒にお酒を楽しめる業態は、ほとんどない状況に陥った。日本酒は国酒であるが、近年は需要が低迷して存在感が薄れている。すしと同じ米を原料とする日本酒は、すしに合う最高の食中酒だ。

杉玉のキャビア寿司(出所:プレスリリース)

 そこで杉玉は、すしをつまみながら、ひとりでも家族連れでも気軽に楽しめる、大衆すし居酒屋として構築した。

 FOOD & LIFE COMPANIESのスケールメリットによる調達力を背景に、スシローでは使わない食材も活用して、コストパフォーマンスの高い料理を提供している。日本酒はすしに合う銘柄を選び、半合から提供して、さまざまな種類を楽しんでもらうように工夫。日本酒の魅力を再発見する場でもある。

 杉玉の顧客層は20代後半から50代と幅広い。特に、家族連れが多いのは居酒屋としては異例で、消えゆく町のすし屋に代わる店として機能している。

 メニューと空間は共通して、フォトジェニックでインパクトあるものを採用。料理では「杉玉ポテトサラダ」「キャビア寿司」といった商品の鮮やかな彩りが特徴。店頭・店内に吊り下げられた杉玉や、壁面に描かれた力強い絵など、思わず写真を撮りたくなるフックをちりばめている。

杉玉、飲めるサーモン(出所:プレスリリース)
杉玉名物、杉玉ポテトサラダ。ありきたりでないメニューの一つ(出所:プレスリリース)

 壁面の絵は各店舗で違ったものになっている。絵師が手掛けているもので、その店に合ったものが描かれている。22年8月にオープンした香港1号店でも、絵師が現地まで出向いている。

 ホールスタッフの制服は、清潔感ある白シャツに粋な蝶ネクタイ、職人的なデニムエプロンと、一般的な大衆居酒屋ではまず見ないコーディネートで、差別化を図っている。

絵師が手掛ける壁面の絵

 一歩先を行く、すしのあり方を提案するのも杉玉の特長。「極み寿司」シリーズでは、回転すしや町のすし屋にはない新しいタイプのすしを発案している。例えば「燻製寿司」、飲めるような食感の「飲める寿司」など、すしの奥深さを感じてもらえる商品開発を心掛けている。

 人気メニューを3点紹介しよう。まず、「ポテトサラダ」は透明のカプセルに入っており、木の土台に乗せて提供される異色のメニューだ。表面は青海苔を塗した緑色で、杉玉のロゴをモチーフとしている。青海苔やガリを使用しており、すし屋ならではのポテトサラダでもある。

 「飲めるサーモン」は、とろけるような口融け、まさに飲めるような食感に驚く。

杉玉、飲める親子稲荷

 「ねぎまぐろとオリーブオイルの素敵すぎる出逢い」は、すし屋の定番であるねぎとろに、すし屋ではまず使わないオリーブ油を使って仕上げた。意外な食材の相性の良さに、すし屋の可能性を感じさせるメニューだ。

 杉玉は5年間で70店ほどにまで増えたが、当面200店を目標に店舗を拡大する。現状、直営とFCの比率は8:2となっている。今後は、杉玉のコンセプトに共感する、各地域の事情に精通した魚を取り扱った経験のある企業を中心にFC店を開拓する方針。

 海外も、香港の1号店が好調に推移しているため、他国も含めてのさらなる展開を視野に入れている。

杉玉、日本酒も豊富にそろえる(出所:プレスリリース)

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