ベンチャーの成長のカギを握る存在、CFO(最高財務責任者)。この連載では、上場後のスタートアップの資金調達や成長支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCFOと対談。キャリアの壁の乗り越え方や、CFOに求められることを探る。
前編に続いて、今回の対談相手はソフトバンクグループCFOの後藤芳光氏。中編では、孫会長に対し「今ではない」と待ったをかけ続けたというArm買収秘話や、2017年に開始した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の評価損について語る。
嶺井: リーマンショックから10年。Armの買収などいろいろありましたが、振り返ってみてどうでしょうか。
後藤: Yahoo! BB事業立ち上げからスプリント買収までのストーリーをお話しましたが、孫さんは決して通信屋さんではない。彼は情報革命家なんです。スプリントの買収を終えたところで、情報革命における「通信サービスの提供」ステージに区切りをつけ、原点回帰した。
では、原点とは何か。彼がカリフォルニア大学バークレー校で学んだときに、マイクロプロセッサに興味を持ったことが事業家としての原点です。そして、それは世の中を変える心臓部であり続けている。そこで、最先端のチップを作っているArmに強烈な興味を持ち、16年に買収に至った、というわけです。
実は買収の5年以上前から、彼はArmに注目していました。でも、私は「(買収するのは)今ではない」と判断していました。というのも、ボーダフォン日本法人買収のためハイレバレッジで大きな負債を負った直後に数兆円の買収に手を付けては、レンダーとの間に不信感が生まれてしまう。先ほど言ったように、不信感が1ミリでも生じたら、それを取り返すのに10倍もの苦労が必要になる。そのため、「我慢してください」と制止したんです。
スプリントの買収が落ち着いた頃、「なんとしてもArmを買収したい」というエネルギーが孫さんにほとばしっていたこともあり、買収するという判断を下しました。3兆円の買収をしても問題ないタイミングになっていました。
嶺井: NVIDIAとの取り組みも、注目を集めました。
コロナ禍で、ArmをNVIDIAに売却すると決定されたのが20年のことでした。売却資金の3分の1は現金で、残りの3分の2はNVIDIA株で取得することで、売却益を確保するだけでなく、NVIDIAの筆頭株主にもなるという、非常に面白いスキームでした。
しかし、許認可の問題で実現せず、Armはソフトバンクグループの手元に残ることに。22年11月の決算説明会で、孫会さんはArmに専念するとし、以降の決算発表は後藤さんに任せることも宣言されました。
後藤: Arm売却の件でも孫さんの運の強さが発揮されました(笑)。もし売ってしまっていたら、そこで終わりになっていた。22年に、規制上の課題を鑑み、売却の契約を解消することにNVIDIAと合意しArmという将来有望な会社が残りました。
新型コロナウイルスが世界的に大流行し、これまで以上に新しいライフスタイルやワークスタイルの核となるAIへの関心が高まってきています。そして、そのAIを支えるのはチップ(半導体)。チップの開発が進まない限り、新しいAIの時代は進んでいかない。自動車産業、医療分野など、あらゆる分野で私たちが思い描くようなAIを動かせるだけのチップが必要なんです。
そして、ソフトバンクグループは、そのチップを独占的に設計するArmの100%株主になっている。AIを支えるチップの重要度が増したタイミングで、Armが手元に残っている。本当に孫さんは運が強いなと思います。
嶺井: 17年5月に立ち上げられたビジョン・ファンドへの注目度も高いですね。10兆円規模かつユニコーンでポートフォリオを組むというファンドは今までありませんでした。
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