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世界の「フードテック」が日本に集結 シティテック東京の注目企業5社東京都主導の国際イベント(2/2 ページ)

» 2023年03月03日 10時21分 公開
[吉見朋子ITmedia]
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お年寄りやペットにも 食品3Dプリンター「NATURAL MACHINES」

 スペイン発のNATURAL MACHINESは、食品用3Dプリンターを開発・製造するスタートアップ。「FOODINI」という名の3Dプリンターは、電子レンジ調理器より少し大きいくらいのサイズだ。中にある筒状のソケットに液体状の食材を入れると、思い通りの形にデザインしてくれるというものだ。まるで絵を描くように花、文字、幾何学模様などがプリントされており、視覚的にエキサイティングな体験を与えるものとなっている。

 FOODINIの用途はホテルやレストラン、カフェなどで出される料理の装飾用はもちろんだが、実は意外な使い道があるという。そのひとつが病院や介護施設で出される高齢者向けの嚥下(えんげ)食だ。ふつう嚥下食はスープもしくはペースト状になっており、全ての材料がミキサーにかけられてしまっている。これでは何を食べているのか分からないし、見た目もおいしそうとは言い難いだろう。

3Dプリンターが作った介護向け嚥下食。食材ペーストから野菜や肉の形をつくれる

 しかしFOODINIは人参やブロッコリー、肉などの食材ペーストから、それらの形を描くことができる。そのため高齢者は自分が今食べているものを味覚的にも視覚的にも楽しめるというわけだ。食に対する制限が増える高齢者が、食事を積極的に楽しむことにつながる。FOODINIは現在ヨーロッパを中心に全世界で1000台近くの販売実績があり、日本でも数十社と研究開発を進めている最中だそうだ。

 ほかにもFOODINIは薬局の調剤士代わりとしても活躍している。これは、面倒な薬の配合をFOODINIが代わりにやってくれるというもの。中には人件費を削減させた結果、50%以上も利益率をアップさせた薬局もあるという。しかも形状を思いのままに形成できるので、飲む人に合わせた錠剤にできる。これは人間だけでなく、ペット用の薬にも活用されていて、FOODINIは単なる「食」にとどまらない可能性を秘めているのだ。

発酵技術で廃棄物をアップサイクル「ファーメンステーション」

 日本のスタートアップ、ファーメンステーションは工場で排出される「食品残さ」などの未利用資源をエタノールなどの原料へアップサイクルする研究開発型企業である。使用する残さは「米」が主だが、穀物や砂糖など糖分を含むものなら何でもアップサイクルできるという。しかも糖分がない木材や果物の皮などの廃棄物でも、独自の発酵技術を使えばサステナブルな原料に生まれ変わらせる。

 さらに抽出後に残る「発酵かす」も、化粧品原料や家畜用飼料など他の用途に活用できるというから驚く。まさにファーメンステーションの発酵技術は、資源循環サイクルの究極的な姿を叶えるテクノロジーと言えるだろう。

未利用資源や廃棄物から発酵・精製したエタノールを使った除菌ウェットティッシュ

 実際、同社はアサヒビールが販売するりんご酒「シードル」の醸造工程から発生する「りんごの搾りかす」を発酵・蒸留、精製して「りんごエタノール」を精製している。また、食品メーカーのカルビーとも、規格外のじゃがいもを使用して「じゃがいもエタノール」を精製。カルビーは「じゃがいもとお米の除菌ウエットティッシュ」として自社の販促物として利用するほか、関係者への配布物として活用するとしている。

 最近は、大企業からこうした引き合いが多くなっていると担当者は話す。アップサイクル商品でPR効果が狙えるほか、工場の廃棄ロスを減らす手段としてもファーメンステーションの発酵技術が優れているからだ。

 創業者の酒井里奈氏は、もともと大手金融業界の出身者。「どうせ働くなら自分にしかできない、社会的意義のある仕事がしたい」と32歳で退職を決断した。その後、東京農業大学に入り直し、発酵について学んだという経歴の持ち主である。起業当時から酒井氏にとって、環境に貢献する「社会性」とビジネスとしての「事業性」を両立することが夢だったという。

 エタノールは工業用途だけでなく、化粧品や洗剤などの生活用品、みそや醤油など飲料食品にもよく使われる必需品だ。とくに新型コロナの影響で消毒向けなど、エタノール需要は伸びているにもかかわらず、日本のエタノール自給率は米国や欧州に比べても極めて低い。90%以上を輸入に頼っているという日本のエタノール事情は、エネルギー安全保障を考える上でもリスクの高いものとなっているのだ。

 ファーメンステーションの発酵技術を使えば、今までゴミとして捨てられていたものでも貴重なエタノールにアップサイクルできる。ファーメンステーションの技術は日本の発展において大きな可能性を秘めているだろう。

農家のマッチングプラットフォーム「FRUTEO」

 コロンビア生まれのスタートアップFRUTEOは野菜やフルーツなどの生産農家と消費者をつなぐマッチングプラットフォームを運営する。購入者はプラットフォームから農産物を注文すると、FRUTEOが購入者に代わって値段交渉などをしてくれるというもの。交渉成立したら農家は指定された場所へ商品を届けるだけでいい。代金はプラットフォーム上で決済されるので、現金でやり取りする必要もない。手数料として決済代金の20%がFRUTEOの収入となる仕組みだ。

 コロンビアの伝統的な農産物の流通システムは、小規模農家にとってデメリットがあった。なぜなら仲買人に値付けをする決定権があり、力が弱い小規模農家には不利なシステムだったからである。しかも国全体の農産物流通の52%を占めるファーマーズマーケットは、デジタル化などの効率化がなされておらず、廃棄される農産物も多かった。

 そこで無駄な食品廃棄物を減らし、立場の弱い農家を救うために生まれたのがFRUTEOというわけだ。農産物の主な購入者はFRUTEOの流通センターがある首都ボゴダ近辺のホテルや小売業などBtoBの顧客。創業は2020年と誕生間もないスタートアップだが、22年は昨年比2倍の約13万ドルを売り上げた。23年は、さらに2.5倍の約32万ドルの売り上げを見込んでいる。

FRUTEOのマッチングプラットフォームの概要。売上分析などアナリティクス機能も備えている

 コロンビア以外にもインドなど農業が盛んな海外では、FRUTEOのようなデジタル技術を使って農家と消費者のミスマッチを防ぐマッチングプラットフォームが増えてきている。CEOで共同創業者のDiego Pinilla氏は「技術面や投資で協力してほしい」と初来日した。コロンビアのような新興国で流通チャネルをつくりたい、または先進事例で経験を積んで日本に逆輸入したいという企業にとって面白いスタートアップと言えるだろう。

糖の影響を減らす食品添加物「ALCHEMY」

 白米は日本人にとって欠かせない主食だが、食品の中でもGI値が高く、糖尿病になる危険性が高いと言われている。GIとは食品に含まれる糖質の「吸収度合い」を示し、数値が高いほど急激な血糖値の上昇、肥満を招きやすい。健康的な生活を送るために、低GIな食品をとることはとても重要だ。

 シンガポールのALCHEMYは、そんな低GI食品に着目したバイオテクノロジースタートアップである。連続起業家で発明家でもあるVerleen Goh氏ら共同創業者2人は、大学で食品化学を学んだ科学者。糖尿病の苦しみから人々を救いたいと、炭水化物のGI値を下げる添加物を開発した。

炊飯時に混ぜるだけでGI値の抑制につながるアルケミーファイバー。製菓用ミックス粉も開発

 AlCHEMYが開発した添加物は「Alchemy Fiber For Rice(アルケミーファイバー)」と呼ばれ、白米にティースプーン1杯分を混ぜて炊くだけで糖の影響を減らせるというもの。もちろん味や食感は変わらない。

 精製された白米はグルコースが分解されやすく、急激な血糖値の上昇を招きやすい。だがアルケミーファイバーはグルコースの分解を抑えるので、通常の白米を食べるよりGI値が低くなるというわけだ。さらにアルケミーファイバーは主に植物由来な成分で作られていて、食物繊維は白米の10倍以上含まれているという。

 実際、オーストラリアのシドニー大学で行った実験では、アルケミーファイバーを混ぜた炭水化物のGI値が下がったと報告された。現在、シンガポールではアルケミーファイバーがスーパーマーケットやECショップで流通するほど一般的な商品となっているそうだ。糖尿病は世界で5億人が悩む世界的な問題だ。毎日、白米を食べる習慣のある日本人としては気になる商品だろう。

 以上が、シティテック東京で発見したおもしろいフードテック企業の紹介となる。2日間にわたって開催された今回のイベントは、最終的に2万5000人以上の来場者を集め、海外の著名なベンチャーキャピタリストらによるトークセッション、選抜を勝ち抜いた注目スタートアップによるピッチコンテストなど、大盛況のうちに幕を閉じた。東京都によると、来年も開催を予定しているという。次回も世界中の有望なスタートアップを紹介できるよう、今後の盛り上がりにぜひ期待したい。

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