空手発祥の地とされる沖縄。起源に関して諸説あるものの、一説には琉球王国時代の武士(サムレー)が護身術として学んだ武術「手(ティー)」がルーツとされている。2020年の東京五輪では、沖縄県出身の喜友名諒選手が空手男子形で初代金メダリストに輝いたことも記憶に新しい。
そんな“空手の聖地”で今、世界中の空手経験者が鍛錬を積んだり、観光客が空手の体験をしたりする「空手ツーリズム」が注目を集めている。コロナ禍から少しずつ沖縄観光が活気を取り戻そうとしている今、独自のソフトパワーとしての空手に期待が高まっているのだ。
沖縄県庁には、他の都道府県に例を見ない課がある。文化観光スポーツ部にあり、16年に発足した「空手振興課」だ。18年には、沖縄空手の「保存・継承」「普及・啓発」「振興・発展」を目指すべく、38年までの20カ年計画である「沖縄空手振興ビジョン」を策定した。同ビジョンを実現するために23〜27年度に取り組む「第2期ロードマップ」には34の施策が盛り込まれており、その中では「空手ツーリズムの推進」がうたわれている。
今や世界中に1億人以上いるとされる空手愛好家。「沖縄から日本中、世界中に広がっていった空手愛好家のみなさんを、空手の聖地・沖縄に呼び込む取り組みをしています」と話すのは、沖縄県空手振興課の佐和田勇人課長だ。
沖縄県は、県外・海外からの空手関係者来訪数を19年度の8871人から、27年には1万1400人とする成果指標を定めている。「空手をきっかけに来てもらうことで『その土地でしか味わえない文化や体験』として、沖縄の伝統音楽や琉球料理などにも触れてもらうことができます」(佐和田氏)と、沖縄独自のソフトパワーを生かした観光産業への波及にも期待を寄せる。
従来、沖縄観光の売りであった「青い海、青い空」を中心とした“南の島コンテンツ”は、アジアだけでもタイのプーケット、インドネシアのバリ、ベトナムのダナンなど、多くの競合地がある。一方、空手は沖縄が有するユニークな強みだ。「『空手発祥の地』というのは沖縄だけの強みです」(同課の桃原直子班長)との言葉の通り、存在感を示すことができる。
海外の空手家の中には、自らが心血を注ぐ流派を大切にし、師を尊敬するが故に、自らの墓を沖縄の先生の墓のそばに造ったり、結婚式を沖縄で挙げて琉球衣装に身を包んだりする人もいるという。それほどまでに海外の空手家たちが沖縄に対して向ける憧れのまなざしは強く、観光の起爆剤としての期待も大きい。
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