新たな“ドル箱”となるか? 沖縄観光の新トレンド「空手ツーリズム」とは(4/4 ページ)

» 2023年03月06日 05時00分 公開
[長濱良起ITmedia]
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 今でこそ「空手ツーリズム」という言葉が誕生しているものの、もともと、沖縄の伝統空手と経済は、親和性の高いものではなかった。戦前生まれの世代では「空手で飯を食うな」という教えが代々あった。道場の先生も普段は教員や警察官など、いわゆる“安定した職”に就いている人が多く「道場経営や空手サービスの提供で十分な収益を立てて維持・拡大させる」という考え方そのものがなかったのだ。今でも、海外でセミナーを開けば何千人も集められるような先生であっても、空手がメイン収入となっている人はほぼいないという。

稽古の風景

 金城範士も昼は会社経営をしており、夕方以降に道場に向かい、後進の指導や自己の鍛錬に努める。「県からは『最低でもこれくらいは受け取ってください』と指導料の目安が示されています。しかし、数十年同じ指導料でやってきていますし、増額することはなかなか考えられません」と複雑な事情を話す。海外でセミナーに出向く際も、自身の普段の仕事を停止させた場合の補填分しか受け取らず「プラマイゼロ」で活動していたという。

 この状況に対して、海外の空手指導者からは「沖縄の道場から来てくれた本部の先生がもっと高い額を受け取ってもらわないと、普段からお金を取って指導している自分たちが逆にやりづらくなってしまう」といった声が寄せられていた。

 生徒が減少傾向にある中で、運営に危機感を感じている道場も増えている。こうした状況を改善し、空手指導の“市場適正化”を図る上でも、旅行会社であるアゲシオジャパンなど第三者が重要な立ち位置を占める。コンテンツや価格のマネジメントがなされたサービスを提供することで、連綿と続く沖縄伝統空手を経済の面からもサポートできるからだ。

 金城範士は、昨今の流れについて「伝統空手の道場からすれば大助かりですよ。収益が多く出ることで、道場の運営に集中できますし、後継者になりたいという人も出てきますからね」と話す。新たな観光の柱として、そして伝統を継承するための土台として、空手ツーリズムとビジネスの今後に注目したい。

著者プロフィール

長濱良起(ながはま よしき)

沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。

琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。

2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。

著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)がある。


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