さて、ここから政治の話になる。本連載をご愛読いただいている皆さんはご存じだと思うが、現在自動車の動力用バッテリーの生産は中国の寡占が進行中であり、日米欧は普通のやり方ではもはや対抗できなくなっている。これは事実として認めざるを得ないだろう。
ただし、そういう状況に至るまでには複雑な事情がある。このへんの話はあまりシンプルに説明できないので、ついつい書くのが億劫(おっくう)になるのだが、放っておくと「躍進する中国のEV技術。日本は絶望的」みたいな話があふれかえってしまうので、丁寧に書かなくてはならない。
それぞれの立場によって見方が変わってくることはあるだろうが、日本貿易振興機構(JETRO)が20年10月から掲載を始めた月次リポートが参考になる。米国政府および関連機関によって発表された米国の対中国政策や措置のほか、米国側から見た米中関係の動向について、行政府、連邦議会、産業界、学会に分け、解説しているのだ。
これを読むと、少なくとも日本のメディアでの報じ方とは全く異なるレベルの警戒感が米国にあることがよく分かる。そして、JETROがこれだけのリポートを毎月毎月掲載するということは、日本でも国内企業から米中リスクに関する多くの問い合わせが入っていることを端的に示しているとも言える。
例えば、直近でも、CATL(寧徳時代新能源科技、中国最大手のEV向け電池メーカー)が中国系の特定自動車メーカーに対して、向こう3年間、現在のバッテリー価格相場の約半額での納品を約束する代わりに、バッテリー調達の8割をCATLに依存させる条件を提示していると、中国系テックメディアからリーク報道があったことがリポートに記されている。
共産党政権下の報道機関による情報なので、正確性は何ともいえないが、仮にこれを事実とすれば、市場価格、つまり相場の半額で売るという話は常識で考えればダンピングであり、そこに専有率の条件を付け、さらにその特典の対象メーカーを指名したとなればWTO(世界貿易機関)加盟国としては完全にアウトだ。
もちろん常識的な競争による価格低減は結構な話だが、一気に相場の半額となればそれはダンピングに他ならず、自由経済として極めて不健全である。全米製造業者協会(NAM)は「米国はその通商条約によって、米国内の製造業者とその従業員に損害を与える外国の慣行に反対し、中国のような国に責任を負わせるべき(JETROリポートより)」と中国を名指しで非難しているが、それはこうしたケースに対してだと思われる。
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