レンガ積みの例でいうと、そもそも親方が「とにかく仕事なんだからやれ!」と言っていては、「大聖堂を創っている」ということさえ伝わらないかもしれません。まずは親方や建設会社側が、「そもそも俺たちは何のためにレンガを積んでいるのだっけ」と自問自答し、それを文言化し、毎日従業員に伝えるということが必要になります。
また、親方が職人を集める際に、「1000年後に残る偉大なる大聖堂を創りたい人、集まれ!」と、何を目指しているのかを明確にして、そもそもそういったビジョンに興味がある人を集めることも重要です。
昨今は、求人を出す際に「なぜ仕事をやるのか」や、企業のパーパスやミッションを打ち出して共感を得る仕組みを作る企業が増えています。
では、「共感があれば高いパフォーマンスを出し続けられるのか」というと、そういうわけではありません。「大聖堂を創ってる!」とどんなに共感している職人だったとしても、3年も4年も毎日レンガ積みだけしていたら、飽きてしまいます。そこで、共感と同じぐらい大事になってくるのが「最適挑戦」です。
これは、『モチベーション3.0』という本で「Mastery(熟達)」と呼ばれているものです。人間がタスクをこなす上で、没頭するには条件があります。それは、「難しすぎず、簡単すぎない」タスクであるということです。
難しすぎると負担になりすぎて不安になってしまう。一方で簡単すぎると飽きてしまいます。適切な挑戦ゾーンで、チャレンジングなタスクをこなすことで、毎年できることが増え、成長している実感を得ることができます。
この「最適なタスク」の割り振りですが、言うは易しで大変難易度が高いものです。レベルが高い人材になってくると、「セルフマネジメント」ができるので、自分で「ギリギリ成果が出そうな、しかしチャレンジングなタスク」を設定して、自分で自分の限界に挑戦しながら成長することもできます。
一方で、そんな超人はまれです。ほとんどの人は、自分は何ができて、何ができないか、どんなタスクなら成果が出そうで、何なら出なさそうか分かりません。そこを助けるのがマネジャーや人事の役割です。
例えば先述したレンガ職人の例でいうと、「もうレンガは完璧に積める」状態になったときに、「レンガ職人を3人束ねて壁を作る工程を管理する」タスクや、「壁の形を設計する」タスクなどに興味が出るかもしれません。そういったWant(やりたいこと)があるものの中で「ギリギリ成果が出そう」なものを選んで渡していくことによって、レンガを積むだけの存在から、より次世代のデザインの大聖堂を創れるチームになっていく可能性があります。
また、どんどんタスクのレベルが上がっていった結果、「ギリギリ成果が出そうな挑戦タスク」が今のチームや建設会社にはなくなってしまうことがあるかもしれません。そうなったら、最適挑戦タスクがある他のチームに異動(配置換え)をしたり、他の建設会社に移動(転職)することも考えられます。
最適挑戦を平易な言葉で言い換えると「少し挑戦的な組織・役割・タスク」のマッチングになるかと思います。社内での移動であれば「異動」、社外への移動であれば「転職」です。最適挑戦を実現するための仕組みはさまざまな専門家が提唱しているので、ここでは割愛しますが、共感と同じぐらい重要だということを知っておいてください。
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