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「あの会社なら、パワハラくらいあるだろう」って本気? 見捨てられる、命を削る人々河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2023年03月24日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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パワハラは「個人の問題」じゃない

 ご承知の通り、日本の先進国におけるポジションは「これでもか!」というほど、さまざまな分野で「マンネンビリ」です。

 なぜ、日本はビリなのか? 多くの項目で共通する理由は、日本が「人」を大切にしない国だからです。

 日本の賃金が圧倒的に世界基準より低いのも「人」を大切にしないからだし、「LGBT理解増進法案」が全く進まないのも「人」を大切にしてないから。

 技能実習生を奴隷のように扱い、入国管理局で苦し悶える外国人女性を死亡させたのも、「人」を大切にしないからです。

 私は常々、「働くこと、それにどう報いるのか?」は、その国の本質的な「人」への考え方、価値観を物語るものだと訴えてきました。それは働く人の「命の価値」を考えることでもあります。

「人」を大切にしない、日本の政治や経営(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 いったいいつまで日本はパワハラを「個人の問題」として扱うのか。

 パワハラはパワハラを生む組織の問題です。そこにメスを入れない限り、パワハラはなくなりません。企業はやりたい放題です。「あいつがやっただけ。会社としては遺憾。処分します!」といった具合に。

 欧米では20年も前から「組織の問題」として扱うための法律を整備しています。

 例えばフランスでは、1990年代後半に、精神科医のマリー・F・イルゴイエンヌの著書『Le Harcelement Moral: La violence perverse au quotidien』(邦題『モラルハラスメント・人を傷つけずにはいられない』)が大ベストセラーになったことがきっかけで、国が動きました。

 イリゴイエンヌ氏が著書の中で、いくつもの実際におきたモラハラ(=パワハラ)事例を被害者目線で取り上げ、「企業経営がモラハラを助長している」との見解を示したことで、批判は「個人」ではなく「組織」に向けられることになりました。その後、フランス政府は2002年1月17日職場でのモラルハラスメントに言及した「社会近代化法」(労働法)を制定しました。

 労働法では、「従業員は、権利と尊厳を侵害する可能性のある、身体的・精神的健康を悪化させるような労働条件の悪化をまねくあるいは悪化をさせることを目的とする繰り返しの行為に苦しむべきではない」とし、「雇用者には予防義務があり、従業員の身体的・精神的健康を守り、安全を保障するために必要な対策をとらなければならず、また、モラルハラスメント予防について必要な対策を講じなければならない」と、企業に予防・禁止措置を課しました。

 では、我が国の政治家は? いったい何をしているのか。

 そして、私たち個人もパワハラを「だってそういう会社だから」と容認することは、パワハラに加担してしまうことでもある。まずはそれを分かってもらいたくて今回、コラムで取り上げました。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。


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