企業のキャリア開発研修を手掛けるコンサルタントは「政府は企業や個人が学校に通う補助金を配分していくことになるだろうが、結果として異なる業界に本当に移動していくのかは疑問だ。人材業界もミドル・シニアの転職に力を入れようとしているが、国の予算でリスキリングして転職市場が拡大すれば悪いことではない。しかし、大企業で働いてきた人たちがその方向に順応できるのか、かなり難しいのではないか」と指摘する。
キャリア自律が叫ばれているが、長年、組織の指示系統の下で仕事をしてきた人に「キャリア自律しろ、そのためにリスキリングだ」と言っても、正直しんどいと思うシニアも少なくないだろう。シニア層のリスキリングは、支援する企業も本人にも大きな負荷がかかる。
ただし50代であれば70歳まで働くとすれば再雇用を含めて15年近くも働かなくてはいけない。職業人生を全うするには学び直しが不可欠だろう。
大手通信業のキャリア面談を担当する人事担当者はリスキリングに消極的なシニア社員にこうアドバイスしていると話す。
「しんがりでもよいのでついて行きなさいと言っている。一人前になろうとするとハードルが高く、敬遠しがちになる。そうではなく最下位であってもそれなりに役に立てば、まったく行動しなかった人に比べると、数年後にはたとえ最下位でもその人たちよりも前を走っていることになるよと言っている。70歳まで働くのであれば、55歳であれば5年かけて学び、即戦力になろうと目指すのではなく、中の下ぐらいことができるようになれば残りの10年間は活躍できますよと、説得している」
本人のモチベーションがなければリスキリングも進まない。政府が考えるほどリスキリングの実現は甘くはない。
しかし、シニア社員も新しい専門知識やスキルを身につけなければ会社で生き残ることが難しくなるかもしれない。そんな危うい時代が到来している。
溝上憲文(みぞうえ のりふみ)
ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。
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