繰り返しになるが、今回の話は「国民全員マイナンバーカード」議論とは別の軸にあるものだ。しかし、そもそも"マイナンバーカードを持つことによる不利益”に関して声高に叫ぶ意見には疑問点が多い。
マイナンバーカードを持つ不利益として、どのようなことが考えられるのだろうか?
唯一の個人番号であるため、この番号が流出した場合に、番号による名寄せ処理が容易になるほか、政府が個人の情報を監視する可能性があるという懸念が示されている。また、マイナンバーカードのシステムに対するクラッキングの懸念もあるだろう。
しかし、そもそもの話で言えば、データ社会の時代にあって、個人とひも付く形、匿名である場合など、さまざまな切り口があるが、あらゆる行動は何らかの形でモニターされている。そうした社会において、マイナンバーを持つことが特別不利益かどうかを考える必要がある。
マイナンバーを持たなかったとしても、現代においてあなたの消費行動などを追跡する手段はある。もちろん、追跡を遮断する手段も増えているが、追跡手段は多岐にわたっている。
個人を特定するために一つの番号に依存する必要はない。複数の情報から、匿名あるいは特定された個人かはケースバイケースだが、どのような行動をしているかを把握をすることは不可能ではない 。
もちろん、多次元のデータ解析が必要となればハードルは上がる。しかし狙いを定めて何かをしたいのであれば、可能ということだ。
この懸念に対して、マイナンバーカードを持つ利点とはなんだろうか。
さまざまな行政サービスの手続きを簡素化でき、行政サービスを受けるための待ち時間が減り、行政側の業務負担の軽減がは将来的な行政機関のコスト削減につながる。税申告はシンプルになり、コロナ禍の中にあったような給付金などのサービスを提供するコストも大幅に下がる。さらに災害時などには避難者情報の確認や支援物資の配分などに活用することも考えられているという。
しかし、普及率が十分でなければ、マイナンバーカード所有者に利益はあっても、持っていない人はもちろん、マイナンバーカード普及を進めてきた国側も十分な利益が得られない。
今回の件に話を戻すと、ドコモのライバルは、健康保険証での本人確認による契約を受け付けることで、ドコモの潜在顧客を奪えるかもしれない。
しかし業界全体の利益を考えるならば、健康保険証という不確実な手段を本人確認書類とする慣習は見直されるべきだろう。他社も追従するのではないだろうか。
もっとも問題は携帯電話だけではない。さまざまな社会的なインフラにおいて、健康保険証を身分証明の書類として認める悪しき伝統は見直すべきだろう。
「本人確認できる情報がほとんどない証明書を身分証明とすべき」という意見があるとするなら、それは「セキュリティホールが残っていた方がいい」と言っているに等しい。
なぜそう考えるのかは、推して知るべしだ。
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