事件以降に回転寿司に行ってみたが、確かにレーンには注文品しか回っておらず、以前と比べて何か寂しい店内風景になったような気がした。そもそも、回転寿司がレーンで寿司を回すのは、機械化による省人化でコストを下げるという意味もあるのだろうが、商品がレーンに乗って回ることで店を演出していたという機能の方が大きい。
多様な魚種の寿司やサイドメニュー、デザートなどを季節ごと、日ごとに入れ替えながら見せるからこそ、来店客はメニューでは気付かない魚種や変わりネタを手にとるのである。いつ行っても新しい発見があるからこそ、回転寿司の店内は「食のテーマパーク」だったのであり、この機能によって回転寿司は専門業態ではなく、ファミレスよりもファミリー層が多いレストランになれた。もしも、この機能を奪われるようなことがあれば、回転寿司業界にとって、死活問題となる可能性さえある。
「回転寿司ではもともと注文品で食べていた顧客が8割」なので、そんなに影響はない、といった一部報道があったが、そんなことはないだろう。廃棄ロスという別問題はあるにせよ、回っていない回転寿司では、季節商品や新メニューをこれまでのようには食べてもらうことは難しくなる。
迷惑動画への対策については、さまざまな建設的な意見が提示されているので、ここで言及するつもりはないが、一つ不満なのは動画の媒体であるSNS側からは何の反応もないことである。
断固たる法的措置をとれば抑止効果がある、というのは道理なのだが、動画を上げているのは未成年者が多く含まれた若い人たちであり、そうした行為がどのような社会的な影響があり、どれほど大きな制裁が科されるか、ということを十分に認識してない人たちなのである。
軽い気持ちで迷惑動画の張本人となってしまったため、償いきれないような社会的制裁を受けることになった若者もいるようだが、それが抑止力となる、というのでは大人の対応とはいえないのではないか。明らかに違法性があると分かる動画が拡散しないようにする手だても整えないで、やったら厳罰処分すればいい、というのは社会として無責任であろう。
SNS運営側は、どんな内容であろうと、動画が拡散しさえすれば収益を得ているのであり、それによってどんな問題が起ころうと知ったことではない、というのは受益者として許されることではあるまい。
今の技術なら画像データ解析などによって、違法性をある程度チェックすることは可能であろうし、明らかな違法性が認められるコンテンツについては、拡散を留保する措置をとって、投稿者とコミュニケーションをとるというのが筋だろう。
SNSが存在しなかった時代には、寿司がレーンを回っていても、こんな事件は起こらなかったのだ。新しいコミュニケーションツールであるSNSの世界は、まだ社会的なルールが追い付いていない面は否めない。こうした機会に社会的なインフラとして、応分のコスト負担をしてもらう必要があると強く思うのである。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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