〇〇の本はどこにありますか? 昔の書店員はどのような準備をしていたのかITmedia ビジネスオンライン Weekly Top10(2/2 ページ)

» 2023年03月31日 09時00分 公開
[土肥義則ITmedia]
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「別れ」の日

 さて、本日は3月31日。年度末の最終日なので「あれもしなくちゃ、これもしなくちゃ」とワチャワチャしている人もいれば、「3月は35日までほしいよなあ。仕事が終わらないよ」などとボヤいているビジネスパーソンもいるのでは。そんな日に、記者が気になっているキーワードは「さようなら」でして、中でも「建物」に注目しています。

 先日、東京駅から徒歩1〜2分ほどのところにある「八重洲ブックセンター本店」を取材してきました。店がオープンしたのは、1978年のこと。その後、営業を続けてきましたが、3月31日をもって閉店します。「本が売れなくなったから」といった理由ではなくて、周辺エリアの再開発に伴うもの。2028年度に“再会”できそうなので(新しいビルで営業を予定)、本好きの人にとっては5年ほどのお別れといったところですね。

 建物の歴史について記事を書きましたので、詳しいことはこちらを読んでいただくとして、この編集後記のようなコーナーでは“こぼれ話”をひとつ紹介します。

 書店に足を運んで「〇〇の本を探している」といったとき、みなさんはどうしていますか。大きな書店であれば、端末が設置されているので「著者名」や「本のタイトル」などを打ち込んで、検索している人も多いはず。では、端末がなかった時代はどのようにしていたのでしょうか。

再開発に伴って「八重洲ブックセンター本店」が閉店
柱の部分に作家がコメントを寄せている

 書店員さんに「あの〜、〇〇という本を探しているのですが、どこにありますでしょうか?」といった感じで、話かけていました(もちろん、今もいますが、だいぶ減ったはず)。質問された書店員さんは、書籍名が掲載されている分厚い本をペラペラめくって、必死に探していました。

 さて、ここで問題です。書店の中で店番をしていると、1日に何度も話かけられるわけですが、八重洲ブックセンター本店はどのような準備をしていたのでしょうか?

 答え:素早く対応できるように、スタッフを訓練していた。

 各フロアにリーダーがいて、その人がお客の役を演じていたそうで。「あの〜〇〇という本はどこに置いていますかね」と話しかける。聞かれたスタッフは、すぐに答えなければいけません。「その本は、こちらにあります」といって案内する。何分で目的の棚にたどり着けるのか、いや、何秒でその本を手渡すことができるのかといったことをテストしていたそうです。

 それにしても、なぜ八重洲ブックセンター本店はこのような訓練を積んでいたのでしょうか。それは、専門書を買い求めるお客が多かったから。近隣に多くのビジネスパーソンが働いていて、仕事に必要な本を買う。地方に住んでいる人は、地元に大きな書店がないので上京して、専門書を購入する。そういった人たちのニーズに応えるために、日ごろから訓練をしていたそうです。

 その後、端末が設置されて、多くの人がそれを利用するようになってからは、上記のテストは終了しました。お客から聞かれることも少なくなった、テストもなくなった。となれば、書店員さんは何をしているのでしょうか。空いた時間を別のことに使っていて、これまでになかった価値を提供しているようです。例えば、イベントを何度も開催したり、店内のPOPを工夫したり。

 5年後、生まれ変わった店はどうなるのか――。本を売る場所だけではなく、何らかの情報を発信する拠点になっているかもしれませんし、他業態とコラボしているかもしれませんし、今では想像できないような形の店になっているのかもしれません。

 そのように考えると、3月31日の「別れ」は、寂しいことばかりではなさそうですね。

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