旭化成「過去最大1050億円赤字」 売上は絶好調なのに、なぜ?妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(4/4 ページ)

» 2023年04月03日 05時00分 公開
[妄想する決算ITmedia]
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 まずマテリアル事業では、原料高などを受けた価格上昇や為替の影響により売り上げが増加するプラスの影響がありつつも、数量減や原料費の増加によるコスト増を打ち返しきれず減益となっています。

 売り上げは大きく伸びていましたが、実は数量も減少しており、需要面でも不調となっていました。

 今回、下方修正の大きな要因となったモビリティ関連の事業に関しても、数量減少の影響を受けており販売面で苦戦していた状況が分かります。

 分野別の営業利益の推移を見ると、セパレータや基盤マテリアルといった商品では中国の景気後退や自動車減産の悪影響を受けたようです。中国市場では行動制限が明け需要は回復に向かう可能性があるものの、金融市場は問題が発生しており不透明感が高い状況は続いていますから、今後の需要動向に注目が必要です。

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 今後は、マテリアル事業では需要が低水準のまま継続する見込みです。原材料価格は一部下落し落ち着くものの、エネルギーコストの高水準が継続するとしており、悪影響は続く見通しです。

 自動車関連も緩やかな回復を見込むものの、電子機器や半導体といった市場では低水準の需要となることを予想しており、市場環境は容易ではありません。

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 住宅事業では、分譲マンションの販売戸数減少の影響はありつつも、建築の請負部門では大型化や高付加価値化による売り上げのプラスで資源高の影響はカバーできていたとしています。

 住宅事業はある程度安定している模様ですが、最近では北米を中心に利上げが進んでいます。利上げが進めば当然ながら建設需要は減少し、実際に北米では受注に悪影響が出始めているようです。この点を考えても、今後も安定した業績を維持できるかは不透明です。

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 ヘルスケア事業は医薬と医療に関しては主力製品が販売を伸ばし好調となった一方で、Bionovaの連結による減益要因や、前期にコロナの影響によって人工呼吸器の特需があった反動を受けたりといった特殊要因で減益となっていました。特殊要因の影響が大きかったものの、事業自体は堅調だったとが分かります。

 第3四半期時点で実質的なダメージが大きかったのはマテリアル事業でした。さらに、住宅事業に関しても今後の見通しが良好な状況ではありません。

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 こうした中で、通期の予測としても下方修正を発表しています。この発表があったのは、減損による下方修正よりも前のことでした。業績はすでに市況の悪化を受け、不振の見通しだったことが分かります。

まとめ

 旭化成では円安や原料高による商品の値上がりを受け、売り上げは過去最高と好調でしたが、需要減速を受けて販売数量は減少し、値上げに関しても燃料コストの増加分を打ち返しきれず不調となっています。

 今後の見通しに関しても市況は良好ではなく、業績の回復には時間がかかる可能性がありそうです。

 また、減損となったセパレータ事業では投資先をはっきりとさせ、今後も成長領域として投資していくようですから、しっかり需要が回復して業績が伸びていくのかに注目です。

筆者プロフィール:妄想する決算

決算は現場にある1次情報とメディアで出てくる2次情報の中間1.5次情報です。周りと違った現場により近い情報が得られる経済ニュースでもあります。上場企業に詳しくなりながら、決算書も読めるようになっていく連載です。

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