12分間隔のダイヤは江ノ電の隠れた伝統といえる。時刻表ファンの私も見事だと思っていた。単線で、複数の駅がありながら、上下線ともピッタリ12分間隔を維持できる。複数の行き違い場所を適切に配置してこそ実現できたダイヤだ。こんな路線は珍しい。
その象徴的な場所が「峰ヶ原信号場」だ。ここは駅ではない。列車が停車する場所「停車場」のうち、客や貨物の扱いがあると「駅」。客の乗降も貨物扱いもなく運転上に必要な停車場が「信号場」となる。
江ノ電に乗った人なら「駅でもないのに電車が停まって、しばらくしたら反対側から電車が来て、すれ違った」と覚えているかもしれない。駅にしたら近所の人々は喜びそうだ。しかし客の乗降を扱うと停車時間が延びてしまう。この停車場は運行時間の調整役だから信号場のままだ。
峰ヶ原信号場のおかげで江ノ電は等間隔運転が可能になっている。これをダイヤグラムに描き起こしてみた。実際は先にダイヤグラムをつくり、それを時刻表に翻訳する。今回はその逆をやってみたわけだ。結果はご覧の通り、まるで整った網のようになっている。このようなダイヤを「ネットダイヤ」と呼ぶ。単線路線の運行のお手本のようなダイヤだ。ダイヤに芸術性は求められないけれど、私は日本で最も美しい単線ダイヤだと思う。いや、何にせよ機能を追求すれば美しい姿になるものだ。
江ノ電が70年間も維持してきた旧ダイヤ。ヨコ軸が時間、タテ軸が駅、右下がりの線が下り列車で、右上がりの線が上り列車。列車の線が交差するところが行き違い場所だ。鵠沼駅、江ノ島駅、峰ヶ原信号場(鎌倉高校前〜七里ヶ浜駅間)、稲村ヶ崎駅、長谷駅で必ず行き違う他社の通勤路線と違って、江ノ電は朝ラッシュ時、夕方ラッシュ時の増便はない。というより、ネットダイヤはすべてのすれ違い設備を使うので、もう増便できる余地がない。そこで江ノ電は、乗客の多い時間帯は「増車」した。2両編成を2つつないで4両編成で運行する。これで輸送量は2倍になる。
私が子どもの頃は朝夕だけが4両編成だったと記憶しているけれども、現在は当時に比べて乗客が多いため、日中のすべての電車が4両編成である。実際、私が訪れた平日昼過ぎの電車も満席、吊り手もほぼ埋まる混み具合だった。利用者数は回復しはじめたように思えた。
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