クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタは佐藤社長体制で何がどう変わるのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2023年04月10日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタが描く電動化戦略

 さて、ここまでが全体的な話で、ここから各論に入っていく。まずは電動化戦略について、これまでの成果を表したのが図6だ。2250万台と書かれているのはHEV(ハイブリッド車)の累計販売台数である。

 これをBEV(バッテリー電気自動車)に換算すると、約750万台に当たるとトヨタは主張しており、電動化プログラムの中でそれだけのCO2削減を達成してきたことを述べている。まあ「敵はCO2」とするならば妥当な主張だと思うが、「CO2をどれだけ減らしたかは関係ない。とにかくBEVをどれだけ売ったかが全て」と主張する人には通じそうもない説明である。

図6:トヨタの電動車累計販売台数

 では、BEVをどうやって増やしていくかを説明するのが図7と図8になる。プリウスの発売以来25年で、HEVの原価を6分の1に低下させ、ついにガソリン車の利益を超えたことが示されている。BEVの事業的可能性を見た時、現実的な話として中国系のメーカーは国からの多額の補助金が入っているので評価のしようがない現状を考慮すれば、きちんと利益を上げているのは世界でテスラだけである。

図7:HEVの収益性について
図8:利益の拡大で実現した「未来への投資」「みんなで成長」「CO2低減」

 トヨタがBEVのラインアップを増やした際に、テスラ同様黒字になると考えるのはあまりにもご都合主義である。常識的にはBEVに取り組んでいる各メーカー同様、BEV事業は赤字になると考えるのが妥当なので、そのBEVの赤字対策は終わったよ。ということをこの資料は説明している。底が抜けたザルのように赤字が出ても維持できる体制をHEVの利益率向上によって確保したということになる。トヨタはもう少しBEV事業で儲かる会社が増えてから参入したかったのだが、腹を括って「大出血我慢比べ」に参入する覚悟をした。そういう戦い方になるBEV事業を始めるに当たって、まずは滑落防止のザイルを用意したことを示すのがこの図である。

 というところから先は個別の製品戦略の話に移るので、中嶋副社長のプレゼンになるのだが、その前に佐藤社長のプレゼンのまとめ部分をちゃちゃっとやってしまおう。

 図9は、各地域別のパワートレイン構成比だ。国によって比率は大きく違う。単純にBEVを抜き出せば、ドイツは17%、中国は18%、米国は5%、インドネシアは1%。インドネシアに「ドイツの事情に合わせろ」と言っても無理だし、ドイツに「米国の事情に合わせろ」と言っても無理だ。それぞれのマーケットでクルマの使われ方も、経済的な豊かさも、インフラ事情も違う。だから地域ごとにパワートレインも異なるし、そもそもBEVに求められるスペックも違うはずだ。

図9:各地域別のパワートレイン構成比

 というわけで結論として図10が示される。これから2050年までの26年間を見通せば、図9の比率はどんどん変わっていく。その全てに対応するためにはマルチパスウェイが必要であるという結論になる。そういう意味ではトヨタの結論は豊田社長時代と何も変わってないといえるし、それこそが継承になる。

図10:全てのパワートレーンを強化

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