クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタの新社長就任で、どんなクルマが出てくるのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)

» 2023年04月11日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

PHEVの戦略

 ここも中島副社長のスピーチ抜き出しから始めよう。

 「次にプラグインハイブリッドです。電池の効率を上げEV航続距離を200キロ以上に延ばすことで、プラクティカルなバッテリーEVと再定義し、開発に、より力を入れていきます」

 まず、PHEVのEV航続距離を200キロというのは、これまでの常識を覆す数値である。例を挙げれば、「日産サクラ」と同等の航続距離を持つことになり、日々の使用に関しては限りなくBEVとして使える。そして遠出の折には、ガソリンスタンドで普通に給油して、ハイブリッドとして走れるわけだから、スマホでいえば、モバイルバッテリーを予備で持っているのと同じことになる。

 プラクティカル、つまり現実的なBEVとトヨタが言う理由はここにある。充電インフラが整った国ならば、従来のBEVでも運用できるのだろうが、そうでない地域で、カーボンニュートラルを進めていくためには、予備のエンジンを搭載した、プラクティカルEVは高い汎用性を備えることになるはずだ。

水素とバイオフューエル

 FCEVについて、長らくトヨタが主張してきた通り、FCEVの普及はまず大型の商用車からスタートすることになる。既にトヨタといすゞ、スズキ、ダイハツなどと共同で運営するCJPT(Commercial Japan Partnership)社では社会実装実験に着手しており、東京と福島を結ぶ、FCEV輸送を計画している。

商用車を軸に量産化

 乗用車のMIRAIの方が先だったという説は当然あると思う。実際、2代目MIRAIはクルマとしてとてもよくできているのだが、クルマの出来とは別の部分で、インフラの普及を見ると、どこの誰にも勧められるものではない。

 ビジネス的にはむしろ、FCスタック(車両上で発電を行う仕組み)を開発するためのテストベッドとしての役割の方が濃厚であり、実際にMIRAIのFCスタックを使って、FCバスの「SORA」やカルフォルニアの大型トレーラーなどが生み出されている。

 CJPTの実証実験は流通を「幹・枝・葉」の3段階に分けて、幹に当たる高速道路での長距離輸送をFCEVの大型トラックで、ゲートウェイターミナルから地域ターミナルへの中距離輸送を距離や勾配によって2トンクラスのBEVトラックとFCEVで、地域ターミナルから家庭や店舗への配送をBEVの軽トラで構成する。

 物流はおおむね定期運行なので、需要は安定していて、かつ決まった拠点にインフラを設ければ成立するからだ。本質はトヨタがずっと繰り返してきた通り、適材適所のマルチパスウェイである。距離レンジによって、パワトレを使い分けている。

 東京―福島の運行が成立すれば、例えば次は東京―愛知など、同じ形で広げていくことができる。その過程で、自然にインフラが成立するので、乗用車がそのインフラに相乗りさせてもらえる未来が描けるというわけだ。ちなみにこの事業を推進するCJPTの社長は、この記事の主役でもあるトヨタの中嶋副社長その人。兼任で社長を引き受けているのだ。

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