イトーヨーカドーを大量閉鎖するのに、セブン&アイが「史上初」の年間売上10兆円を達成したワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2023年04月14日 05時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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グーグルによるユーチューブ買収

 06年にグーグル(現在は「アルファベット」)がユーチューブを買収した際、多くの人々は16.5億ドルという巨額の買収金額に疑問符を投げかけた。なぜなら、当時のユーチューブはほとんど売り上げを計上していないだけでなく、設立してからわずか1年半程度の時点で実行された案件だからだ。

 しかし、買収された後のユーチューブはユーザーの支持を集めて急速に成長し、現在では世界でも有数の動画プラットフォームとなった。今では広告売上高として、買収額の5倍近くとなる70億ドルほどを四半期ごとにたたき出している。買収によって、グーグルは収益の柱を増やし、企業価値の向上に成功したといえる。

フェイスブックによるインスタグラム買収

 12年にフェイスブック(現在は「メタ・プラットフォームズ」)が10億ドルで買収したインスタグラムも、当時は社員が13人しかいない会社で、売上高もほとんど計上されていなかった。そのため、こちらも買収に批判ムードが漂った。

 ユーチューブ同様、インスタグラムも買収された後に急成長し、14億人以上の月間アクティブユーザー(MAU)を抱える大規模サービスとなっている(22年1月時点、データは同年版「情報通信白書」を参照)。フェイスブックのMAUが29億人程度(同前)であることや、成長率が鈍化している点を踏まえると、買収は広告収入や企業価値向上以上に意義があったといえる。仮にインスタグラムが独自に成長を遂げていたり、他社に買われていたりしたら、GAFAの「F」は別のアルファベットになっていた未来すらあり得ただろう。

 これらの事例からも分かるように、「買収で業績を上げるのはずるい」という指摘は財務諸表上における短期の変動にとらわれたものだといえる。中長期的に考えれば、買収を通じて企業価値を向上させることは世界的に見ても王道のパターンになっているのだ。現在でも、アルファベットやメタ・プラットフォームズは公開されているだけで年間数社以上のペースで企業を買収しており、これによって得られた経営資源を自社事業に統合することで企業価値を最大化させている。

 企業買収の背景には、収益の確保以外にも新規市場への参入や技術・知識の獲得、競合他社との差別化といったものがある。企業価値が向上し、株主に利益が還元されるのであれば、買収は戦略的な選択として正当であるといえる。

現状、スピードウェイの買収は成功といえる

 日本企業の買収が失敗に陥る例も少なからずある中、セブン&アイ・ホールディングスがスピードウェイを買収したことは、「今のところ」成功として数えて問題ないだろう。投資の基本戦略として「安いときに買う」というものある。コロナ禍で業界全体が落ち込んだ状態での買収攻勢は、まさにそのような割安投資の理にかなった判断といえる。

 実際に、買収以降の業績を見ても同社は北米市場での規模拡大と事業の多角化を図り、収益力を向上させている様子を確認できる。中長期的な影響は今後の決算動向から継続的に確認していくことが必要となるが、今のところ「ずるい」という感情理論以外では、批判する論拠を見だすことが難しそうだ。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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