日本郵政は、15年にオーストラリアの物流会社であるトール社を約6200億円で買収した。これは日本郵政が同年にIPOした際の売出価格ベースで算出した資金吸収額の6930億円とほぼ同水準である。つまり、日本郵政は上場で投資家から集めたお金のほとんどをこの買収案件に賭けたのだ。
残念ながら、日本郵政の賭けは21年4月に10億円でトール社を売却したことで失敗に終わった。買収以降、トール社の業績は悪化し続け、日本郵政は何度も損失補填を迫られた。その後、コロナ禍がとどめとなる形で、日本郵政はトール社の売却を決定したのだ。
当初の目的は、海外での物流事業を拡大し、成長市場であるアジア・オセアニア地域でのシェアを拡大することであった。しかし、買収直後にトール社の経営基盤が弱いことが発覚。市場環境の悪化に見舞われたことや、経営統合後のシナジー効果が十分に生まれなかったことを踏まえると、コロナは言い訳にはならない。この事例は、企業買収に際しては適切な事業評価やリスク管理が重要であることを示している。
日本企業による海外企業の買収は、この他にも東芝とウエスチングハウスのケースなど、後に自社の経営の根幹までも揺るがすほどの失敗例が大々的に報じられることも多い。こうしたことから企業買収へのネガティブイメージも強く、今回セブン&アイ・ホールディングスに対して批判ムードとなる一因として数えられるだろう。
一定の規模まで成長し、成熟した企業は、さらなる企業価値の向上を目的にM&Aを繰り返すことが一般的だ。これは、商社などをはじめとした日本企業独自の成長モデルというわけでない。GAFAに代表される海外テック企業においても、継続した成長のための重要な戦略である。
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