また、中村氏は安くてうまい居酒屋の多い、堅苦しさのない街の雰囲気も魅力という。「コロナ前は頻繁に飲み会があり、仕事終わりに別の会社の人に誘われて飲みに行くということもありました。安くてうまくて気軽、時間を気にせず飲める。丸ノ内のように料金、敷居ともに高くない。気楽に生きることができる街という印象です」
コロナ禍で集まる機会が減ったり、そもそも集まる必要はないのではと言われた時期もあったりしたものの、ここ数カ月はオフラインに戻ってきている。「目の前の仕事をするだけならオンラインで十分でしょう。ですが、リアルの横のつながりがコミュニティーの満足度を高めますし、対面での盛り上がりが協業につながることもあります」(中村氏)
五反田は大正時代に鉱泉が発見され、温泉旅館街を経て花街へ発展。関東大震災時には東京都心部から当時は郊外だった五反田に渋谷、品川などの芸者衆も含めて人口が流入した。大正時代以降は、大崎の工場群で働く人達が遊びに集まった。
歓楽街としての五反田のイメージはここから来ているのだが、その一方で近くには池田山、島津山といったお屋敷街も控える。そのためか、舌の肥えた人たちを満足させる老舗、名店もあり、人も交差する。飲食店にも、人にも多様性がある街というわけで、そのあたりが五反田という街の魅力といえるのかもしれない。
だが、そう考えると現在の建築ラッシュには懸念も湧く。再開発は大きなビルを作りたがるからだ。五反田バレーではさまざまなタイミングのスタートアップが集まりやすい、成長しやすい五反田を目指しているそうだが、そのためには創業当初に必要な小さく手頃なオフィスから成長期の中規模、さらに大規模と多様な仕事環境があるのが望ましい。五反田の今の魅力が今後も保たれるかどうかはこれからの開発にもよる。せっかくの多様な街・五反田を大型ビルだけの平板な街にはしてほしくないところだ。
中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)
住まいと街の解説者。(株)京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。
40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング