1泊20万円! 電気と水を自給しているホテルが、稼働率90%の理由週末に「へえ」な話(2/4 ページ)

» 2023年04月30日 08時30分 公開
[土肥義則ITmedia]

「100%自給ホテル」開発のきっかけ

 電気や水を100%自給するホテルは、海外でも珍しいわけだが、なぜこのような施設をつくろうと思ったのか。きっかけは、18年にさかのぼる。同社の社長、高野由之さんが中央アフリカのウガンダに足を運んだときのことである。アフリカといっても自然が多くて、降水量も比較的安定している(地域によって違う)。ただ、泊まったホテルは毎日のように停電して、水道の蛇口をひねると茶色の水が出てきたそうで。

 「日本で暮らしていると、電気・水道・ガスは当たり前のように使えますが、途上国の多くはインフラが整っていません。こうした課題を解決するには、どうすればいいのか。電力会社を始めるわけにはいきませんし、水道会社を立ち上げるわけにもいきません。自然エネルギーを使った宿泊施設であればつくれるのではないかと考えて、動き始めました」(高野さん)

 とはいえ、そんなノウハウはない。どこから手をつけていいのかよく分からない中で、ARTH社が目をつけたのは気象データである。東京と大阪は500キロほどしか離れていないが、気温も日射量も降水量も違う。ホテルをどこに設置するかによって、必要な電力や水の量も異なる。

客室の広さは75平方メートル

 というわけで、ある地点の1時間ごとの気温、湿度、日射量、降水量の数字を集めまくったのだ。しかも過去20年分のデータを分析して、「太陽光パネルの枚数はこのくらいかな」「貯水タンクはもうちょっと増やしたほうがいいかな」といったやりとりが始まった。

 ただ、数字とにらめっこをしていても、それは机上の空論で終わってしまう。ARTH社は大阪の造船所跡地に研究室を設けて、そこで実証実験を行うことに。何度も何度も試行錯誤を繰り返して、4年ほどの時間をかけてようやく完成したのだ。

 ただ、当初の計画だと、ホテルはもう少し早くオープンする予定だったという。新型コロナの感染が広まったことで、多くの宿泊施設はダメージを負った。「このタイミングで始めるのはやめたほうがいいかな。感染が落ち着いてからスタートしよう」ということで、時期を遅らせたのだ。

 宿泊施設だけでなく外食など、多くの会社が同じようなことをしたと思うが、ARTH社にとってこの決断が結果的に「吉」につながった。どういうことか。

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