Aさんは自身の発言について、発言の内容自体は認めていました。しかし、発言した背景については「全く悪気はなかった」「純粋に早く親睦を深めようと思っただけ」「早くメンバーにも成長してほしかっただけ」と抗弁しました。このように、悪気はなくてもハラスメントの行為者となってしまうこともあるのです。
では、なぜAさんはハラスメントの行為者になってしまったのでしょうか。その原因は、誰しもが持っている「思い込み」です。この「思い込み」は個人が過去に体験した、または見聞きした経験などを基にして作られています。
Aさんには、過去に懇親会でプライベートの話をしたことでメンバー同士の関係性が良くなった経験や、先輩や上司からダメ出しをされたことで仕事を頑張れた経験があったのでしょう。無意識のうちにプライベートの話をすれば関係性が良くなる“はずだ”、ダメ出しをすることでメンバーが仕事を頑張る“はずだ”という「思い込み」によって、知らないうちにメンバーに不快な思いをさせてしまっていたのです。
最近ではハラスメントの種類は40とも50ともいわれています。しかし、法令上で定められているハラスメントは「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」「マタニティ・ケアハラスメント」の3つのみで、以下のように定義されています。
(1)セクシャルハラスメント:職場において行われる性的な言動への対応によって労働者が労働条件について不利益を受け、又は性的な言動によって就業環境が害されること
(2)パワーハラスメント:優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの
(3)マタニティ・ケアハラスメント:妊娠や出産・育児、家族の介護を行うことをきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせなどを行うこと
しかし、どのハラスメントも法令上の定めは存在するものの、明確な判断基準があるわけではありません。ハラスメントに当たるかどうかは言動の目的、経緯や状況、頻度や継続性、行為者との関係性など、さまざまな要素をもとに総合的に判断されます。特にセクハラについては「被害を受けた労働者の平均的な感じ方を基準とすることが適当である」といわれており、ハラスメントの線引きは難しいといえます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング