「誕生日おめでとうございます」職員は禁句 「個人情報保護」がもたらす悪影響声をかけられない(1/3 ページ)

» 2023年05月29日 09時00分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

 組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)

 1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。

 京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)


 職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けるのを禁じている高齢者住宅や高齢者施設があるそうです。理由は、「個人情報保護法違反に当たる可能性があるから」とのこと。

 確かに法律は、業務の目的の範囲を超えて個人情報を使用することを禁じていますが、高齢者の暮らす場で働くスタッフの業務の目的は、心身共に健やかな高齢期を送ってもらうことであり、誕生日の声掛けはもちろん、個別のさまざまな情報をもとに人と人をつないだり、ふさわしい場にお誘いしたり、機会の提供や紹介をしていったりするような働きかけは欠かせないと筆者は考えます。

 交流や関係を失っていくことを指す「社会的フレイル」が、身体的あるいは精神的(認知機能を含む)なフレイルを引き起こすことは、高齢者ケアの分野では常識です。もし、それを知っていてそんなことをしているのであれば、それは怠慢であり、1人暮らしのお年寄りに、誕生日という節目に誰にも気付かれず、声も掛けられない孤独を味わせたいのかとさえ思ってしまいます。

 「誕生日おめでとうございます」を禁じるようなところでは、例えば「同じ趣味の人がいたら紹介して」「こんな相談に乗ってくれる専門家が入居者の中にいたら教えてほしい」「仲間のお見舞いに行きたいので、入院した病院を教えて」といった要望があっても、全て「個人情報です」と言って断ってしまうのでしょう。そうして交流が生まれず、関係が薄くなり、貧弱なコミュニティーとなって、それがじわじわと心身の衰えへとつながっていきます。

 また、寂しい場で暮らすストレスが、職員への難しい要望やクレームへと変わり、職員はそれらの対応に追われ続けることになっていくでしょう。

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