幸楽苑の“低迷”はどうなる 「安くてうまいものを提供する」ビジネスの行方スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2023年05月30日 10時19分 公開
[窪田順生ITmedia]

「ラーメン→ステーキ」ネタを変えただけ

 筆者はこれが「人口増の考え方」にとらわれているようにしか見えなかった。

 「うまいラーメンを安く提供する」というビジネスに陰りが見えてきたので、今度は「うまいステーキを安く提供する」というビジネスに切り替える。「ネタ」を変えただけで、「安くていいものを消費者に提供する」という考え方自体は1ミリも変わっていないからだ。

 実際、この「業態転換」も順調とは言い難い。23年3月期決算によれば、FC事業は国内12店舗にとどまっていて、「いきなり!ステーキ」の店舗はゼロになっている。この戦略は「ブーム」が過ぎればその反動をモロに受けてしまうのだ。

 さて、そこで次に気になるのは、「安くていいものを消費者に提供する」という考え方が人口減少時代に通用しないとなると、今はどんな考え方をすべきかということだろう。結論から先に言ってしまうと、それは「消費者にさまざま価値を提供してカネをつかってもらう」という考え方である。

 人口減少で消費者が減っているので、外食も小売も「客単価」を上げないことにはビジネスが成立しない。しかし、値上げや「高いものを売る」ということをしても、賃金が低く抑えられる「安いニッポン」では客がつかない。

 では、どうすればいいのかというと、「付加価値」を付けていく。ラーメンをすすったり、ステーキを平らげてお会計という「食べるだけ」のスタイルから、そこでビールを飲んだり、コーヒーを飲んだり、あるいはパソコンで仕事をしてもらって過ごすことで、一人の客に余分にカネを落としてもらう。

 そういう「付加価値」路線の分かりやすいケースが、幸楽苑のライバル「日高屋」だ。利用している人ならば分かるが、日高屋は数年前から「ちょい飲み」需要に力を入れている。

日高屋の「中華そば」(390円)
日高屋の「ラ・餃・チャセット」( 650円、公式Facebookページ)

 安くてうまいラーメンをたくさん食べてもらって客を回していくのではなく、仕事帰りの人がビールやチューハイとともに、餃子や中華系おつまみを注文して一杯やってもらう。そして、締めにラーメンやチャーハンも頼んでもらうということで、ちょい飲みという付加価値をつけて「客単価」を上げているのだ。

 だったら、幸楽苑も「ちょい飲み」路線をやればいいと思うだろう。実はそれは幸楽苑側もよく分かっていて、21年12月から創業以来初の餃子バル「餃子の味よし」への転換を進めている。が、23年3月期決算によればまだ4店舗しかない。日高屋は駅前や商店街など「徒歩生活者」が多いエリアに多く出店しているので、中華酒場路線が成立する。しかし、幸楽苑はロードサイド店舗も多いため、「ちょい飲み」という付加価値を訴求しにくいのだ。

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