信託型ストックオプション「最大55%課税」でスタートアップが悲鳴 抱えていた“2つの欠陥”古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

» 2023年06月02日 12時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 「億万長者」という言葉から連想される職業といえば、スポーツ選手や芸能人、有名企業の経営者というイメージが強い。しかし、世の中には受付係やパートタイマーの従業員といった職種でも億万長者の座をつかんだ者がいる。

 上記の例は、YouTubeやスターバックスコーヒーといった巨大企業の黎明(れいめい)期を支えていた従業員に付与されたストックオプションや株式報酬だ。日本では最近の事例で「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)の従業員の多くが株式報酬やストックオプションによって億万長者となった件が話題となった。

ストックオプションの「重税」が問題に?

 黎明期の企業が役職員に十分な収入を約束できない中で、経営陣は現金の代わりに今の企業価値で自社株を購入することができる権利、つまり「ストックオプション」を支給していた。その後、仮に自社が上場して株価が大きく値上がったとしても、ストックオプションを行使すれば当時の安い株価で株式を購入できるため、その差額が報酬となるわけだ。

 仮にその報酬が1億円として、それが現金で付与されてしまえば、日本の累進課税制度と合わせて最大55%もの所得税、住民税が課されることになる。しかし、日本における上場企業などの株式売買にかかる税金は20.315%であるため、「税制適格」と認定されたストックオプションによって換金した利益が1億円出たとしても2031万5000円の税金で済む。

 しかし、近年スタートアップ企業において浸透しつつあった「信託型」と呼ばれるストックオプションについて、国税庁が原則として「給与所得」と見なすとの発表があった。多くの企業が信託型ストックオプションを導入しており、中にはすでに多額の売買益を得た者も存在する。

photo ストックオプションへの“重税”が懸念されている(画像はイメージ。提供:ゲッティイメージズ)

 スタートアップ企業の報酬に重税がかかるとしたら、岸田政権の推進するスタートアップ支援とも逆行する結論にもなりかねず、一般企業においても株式報酬の導入に消極的となってしまう恐れがある。

 そこで今回はかつて信託型ストックオプションを受けとった経験があるだけでなく、自社にもその制度を導入しようとして見送った筆者が、国税庁の言い分や見送るにあたって考慮した信託型ストックオプションの欠陥を踏まえて今回の事例を解説していきたい。

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