実際に、アップルという会社は、これまでに何度もこうした市場の再定義により、新しい市場を生み出しリードしてきた会社といえます。
そもそも「パーソナルコンピュータ」の概念が一般に浸透したのはスティーブ・ジョブズと「Apple II」の成功が大きかったといわれていますし、「モバイルコンピュータ」の象徴であるスマホ市場を切り開いたのは間違いなくアップルのiPhoneです。
そう考えると今回アップルが提示した「空間コンピュータ」においても、アップルが市場をリードすると考える人が少なくないのは当然です。
ただ、現在の市場環境を踏まえると、そう簡単にいくのかどうか、専門家によっては見方が異なっているのが現状です。
果たして、「Apple Vision Pro」は市場のリーダーになれるのかどうなのか、過去のアップル製品の歴史と比較して予想してみましょう。大きく分けてシナリオは3つ考えられます。
これまで、アップルは先行するメーカーが乱立して存在する市場において、ソフトウェアと一体化した新しいユーザー体験を提供することで、一気にその市場のリーダーシップを取ることに何度も成功してきました。
最も象徴的なのはiPodでしょう。iPodが発売されたのは2001年のことですが、1998年頃から市場には「MP3プレイヤー」とよばれるデジタルオーディオ端末が存在していました。
しかし、iPodは「全ての曲をポケットに入れて持ち運ぶことができる」というコンセプトや音楽配信サービス「iTunes Music Store」との連携により市場を席巻。米国でのデジタル音楽プレイヤーにおけるシェアは一時期安定して7割を超えていたといわれています。文字通り、iPodはデジタル音楽プレイヤーのリーダーになったわけです。
同様のアップルのリーダーシップは、他の市場でも発揮されています。例えば2010年に初代モデルが発売されたiPadも、ニッチな市場と考えられていたタブレット端末市場を一気に拡大。現在でもアップルは38%のシェアを取っており、2位のサムスンに倍以上の差をつけています。
(参考:世界タブレット出荷、3年ぶり減少 Appleのみ増加)
また、2015年に初代モデルが発売されたアップルウォッチも同様にスマートウォッチ市場を拡大。アップルは出荷台数のシェアで34%とトップで、2位のサムスンの3倍以上のシェアを誇っています。しかも、売上金額でみるとそのシェアは約60%に達しているそうです。
(参考:2022年スマートウォッチグローバル市場における出荷を発表)
そう考えると、今回のApple Vision Proを軸に、アップルがこの市場のリーダーになることをイメージする人が少なくないのは当然です。
ただ、上述の3市場と大きく異なるのは、ヘッドセット市場には既にシリーズ累計2000万台を販売しているといわれる「Meta Quest」が存在する点です。
VRデバイス市場においては、ある意味「Meta Quest」こそがアップル的なアプローチをとって市場シェアを獲得したプレイヤーと言えます。現在VRデバイス市場におけるメタのシェアは78%にまで達しているといいます。
(参考:VRヘッドセット市場シェアは「Meta Quest 2」が席巻、ソニーやPico、仏Lynxらも攻勢へ)
そう考えると、この1のシナリオが短期的に実現するのは難しいと考えるのが無難のように考えられます。
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