では、メタバースは全く役に立たない技術なのか? 答えはイエスであり、ノーだ。この手の要素技術というものは、その特徴を理解し、発展形をイメージしながら、企業の諸活動の中に組み込めるかどうかがポイントだ。
メタバース上でアパレル産業が発展するにはどのような未来が考えられるか。私の考えはこうだ。
メタバース上の仮想店舗ではリアルの自分、つまり、アバターでなく自らの姿を映し出す。そこに米アップルが、iPhoneやiPadに搭載している計測機能「LiDARスキャナ」を応用して、サイズを計測するサービスを展開する。3次元空間を計測できる技術を持つアップルが、メタバースが発展したのちにこのようなビジネスに打って出てもおかしくないと考える。
そして、ユーザーはアップルが提供するサービスで正確なサイズデータを購入し、自らの服装をメタバース上でも着こなし、実際の自分にも似合う服を買う、という日が来るかもしれない。
ただし今のようにメタバースのプラットフォームが点在し、ユーザーが分散している問題が解決しなければ、このようなビジネスへの集中投資は起こり得ないだろう。
東京商工リサーチの調査によると、アパレル小売業者の約30%は赤字だという。日本では少子高齢化が進み、過疎化が進む地域ほど店舗ビジネスは苦境を強いられている。こうした現状を打開する上で、仮想空間での経済に商機を見いだすのは間違っていない。
今後、購買力の主力がZ世代に代わる時代が到来したとき、メタバース上の経済はより活性化するかもしれない。しかしこの世代のアパレル需要はすでに中国、韓国の格安ブランドがしっかりとグリップしている。商社やら企画会社やらが複雑に入り組んだ日本のアパレルが太刀打ちできないのは、今米国で起きている中国アパレル通販の「SHEIN」や「Temu」の快進撃をみれば分かる。
日本のアパレル産業が米国と同じ道をたどらないためにはどうするべきか。日本のアパレル各社は、いくつかの本当に売れているブランドと合従連衡を進め、ブランドを全て取りそろえた仮想モールを作れば、メタバース市場でも強い存在感を持つはずだ。
しかし、アパレル同士の仲の悪さは折り紙付きである。そうこうしているうちに、外資系ファンドあたりに一気に「ロールアップ」される未来がくるかもしれない。
経営コンサルタント
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販(株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役(2016年5月まで), The longreach group(Private Equity)のアドバイザーを経て、現在はIT起業。
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
代表著作:
「知らなきゃ行けないアパレルの話」「生き残るアパレル死ぬアパレル」 「ブランドで競争する技術」全てダイヤモンド社
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